トントン。
「消毒に来たぞ」
翼の声。

ドアを開けると、消毒とガーゼ、包帯を持った翼が立っていた。

「大丈夫だよ。1人で・・・」
「できないだろ。利き腕だぞ」
アハ、そうでした。

おとなしく右腕を差し出した。

「痛っ」
まだ消毒がしみる。

「ねえ、優しくしてよ」
わざわざ手当てをしに来てくれているのにどんな言いぐさだと思うけれど、翼の前で本音が出てしまう。

「少し我慢しろ」
翼は翼で、病院で見せる優しさはない。
でも、これが気兼ねなくいれるって事。

「なあ」
ん?
呼ばれて顔を上げると、真面目な顔をした翼がいた。

「何よ」
「犯人、捕まったらしい」
へ?

「随分早いのね。誰?」
「20歳の浪人生だって」
「へえー」

翼の話によると、犯人は近くに住む2浪中の男の子。
医学部受験を目指していて、そのストレスから衝動的に犯行に及んだらしい。
私が狙われた理由は、

「お前、病院の袋に資料入れて持ち歩いていただろう?」
「うん」
ちょうどいいサイズだったし、病院にはいくらでもあるし。
便利に使っていた。

「それを見て、病院のスタッフだと思ったんだと」
ふーん。
まあ、とんだ逆恨みって事ね。
でも、待って
「じゃあ、あの張り紙は?」
「別人らしい」
そんな・・・

「とにかく、もうしばらくはおとなしくしているんだな」
「うん。痛っ」
翼がピンセットで縫合した部分を触るから、つい声が出てしまった。

「何かあれば、すぐに言うんだぞ」
「分ってるって」
「本当か?」
怪しいなって目をしてる。

ったく、どこまで信用がないのよ。

「なあ」
ちょっと真面目な顔の翼。
「何よ」
「もし、俺のファンだったらごめん」
「はあ?」
「だから、俺のせいで逆恨みされたんなら、ごめん」
随分としおらしく、頭を下げられた。

「何うぬぼれているのよ。もしそうでも、私の自己責任。それに、私も敵が多いから。翼のせいとは限らないわ」
「敵が多いなんて、うらやましくないな」
「まあね」
自分でも、損な性格なのは分っている。
でも、仕方ない。