病院から自宅までは車で20分ほど。
私は結局どこにも寄ることなく、そのまま帰った。

戸建ての借家のくせに、駐車場がない我が家は300メートルほど離れた場所に2台分の駐車場を借りている。

あれ、翼の車がない。
残業かな?
救命は、何かあれば遅くなることも珍しくない。
臨床医の中でもかなりハードな部署だと思う。
しかし、翼が「俺は救命に行く」と言ったとき、フーンと納得できた。
いかにもな選択だと思った。

何でも器用にそつなくこなす翼だからこそ、いつも少し上を目指す。
一番になってやるって野心ギラギラではなく、少しだけ険しい道を選択する。
それが福井翼。
その真っ直ぐに前を見て手を抜かない生き方を、私は尊敬している。

街中とは言え、人気もなく寂しい道。
それでももうすぐ家も見えてくる。
あと少しで自宅。
そんな思いが気を緩ませた。

ん?
いつの間に後ろから自転車が近づいてくる。
反射的によけた。
車道と歩道の区別さえない道だから、お互い避けあって使うしかない。
でも、自転車は真っ直ぐ私に向かってきた。

痛っ。
腕が熱い。

その場にしゃがみ込んだきり、動けなくなった。

痛い痛い。

右腕の肘から下辺りから、真っ赤な血が筋となって流れている。
血を見ることなんて珍しくもないはずなのに、自分の体から出ていると思うと怖い。

お願い、誰か助けて-。

その時、近づく足音。

ああ、翼。
良かったー。

「紅羽、どうした。しっかりしろ」
遠くの方で翼の声を聞いた気がする。
助かった安堵感で、私は気を失った、

その後、翼によって救急車が呼ばれ、勤務先の病院へ搬送された。