「おーい」
今度は廊下から大きな声。
聞く気がなくても耳に入ってくる。

「うちの子は持病があるんだ。重症なんだから先に見てくれっ」
父親らしき人が大声を上げている。

覗いてみると、バギーに乗った男の子。

ああ。
確かに生まれたときからうちの病院でフォローしている子。

「どうしました?」
外来師長が駆け出していった。

「熱があって息が苦しそうなんだ」
「そうですか」

確かに、少し息が荒い。
でも、発熱中の子供はあんな感じだと思うけれど。

「少し待てますか?」
なるべく冷静に、師長は声をかけた。
しかし、
「待てないから言ってるんだっ」
お父さんはもう冷静さを失っている。

「でしたら、救急外来へ」
「だ、か、ら、あそこは小児科の先生がいないじゃないかっ」
「ですが・・・」

ここまできたら会話は成り立たない。
仕方ない、誰かが出て行くしかない。

でもね-。
今はどの診察室も患者が順番を待っている。

私だって、病気の子を心配する親の気持ちがわからなくもない。
気の毒だとも思う。
でも・・・

「顔に出てるよ」
公の声。

「ど、どうして?」
「うちの診察室まで聞こえてきた」
ああ、そういえば内科の診察室は小児科の向かいだった。
待合で騒げば筒抜けって事ね。

「だから、早く診てくれって言ってるんだっ」
お父さんの声が怒鳴り声に変わった。

「早く、医者を呼べよっ」
どんどんエスカレートする怒鳴り声に、思わずビクンと反応してしまった。

もうダメだ。
きっと、誰かが警備に連絡していると思う。