私、山形紅羽(やまがたくれは)は27歳の小児科医。
やっと研修医の肩書きがとれて、医師として歩き出したばかり。

今日は同じ大学の同期で、付属病院に就職したメンバーとの飲み会。
夏美は大学の同期で、私と同じ小児科医。
本当はお金持ち開業医の娘なのに、チョー現実主義者。
今だって、
「もったいないから、ほら飲みなさい」
良い所のお嬢さんとは思えない発言を繰り返す。

「ほんと、黙っていれば美人なのにね」
「紅羽、やかましい」
あら、聞こえてた。

「こら紅羽、飲み過ぎだぞ」
どこからともなく現れた翼が注意する。

「はいはい、分ってます」

福井翼(ふくいつばさ)は大学から同級生。
今は救命医として勤務している。
見た目は雑誌から飛び出てきたような、THE王子様。
顔が良くて、頭が良く、それで性格の良い奴ならモテないはずがない。
当然、学生時代からかわいそうなくらい目立っていた。

「飲み過ぎるな。介抱なんてごめんだからな」
耳元に口を寄せ、小声でささやく。

ッたく、不必要なまでにいい男。
ここまでくると、嫌みよね。

「分っているわよ。自分の足でちゃんと帰ります。ご心配なく」
フン。
本当は私の方がお酒強いのに。

「ごちそうさま」
私たちを恋人同士だと思っている夏美の呟き。
「はいはい、お粗末様」
フッ、笑ってしまった。