「シェアハウスって事か」
2階に上がった時点で、先生も状況を理解したらしい。

「まあそうです」
「随分と大胆だな。変な噂でも立ったらどうする?」
「別に気にしません」
何、嫁入り前の娘がとでも言う気?
バカらしい。

「で、コーヒーは?」
「ああ、そうでした」

好き嫌いの激しい私は、食べられないものが多い。
その分好きなものにはこだわりがあって、コーヒーもその1つ。

「ブラックでいいですか?」
「ああ、ありがとう。あれ、豆から引くのか。こだわってるな」
「ええ、ちょっと待ってくださいね」

どうしてもインスタントを飲めない私は、家では豆から引いてコーヒーを入れる。
面倒くさいけれど、やっぱり美味しいから。

「うまい」
いつも診察室で見せる優しい笑顔。

「ありがとうございます」

「ねえ、これは?」
壁一面に作り付けられた本棚にぎっしり並べられた本を手に取る。
「私の趣味です」
「へえー」

並んでいるのは全部医療物。
小さい頃から、私は医療物のお話が大好き。

「これ、俺も好きだった。懐かしいなあ」
ヤダ、少年のように目がキラキラしてる。

「読んでもいいか?」
「どうぞ、私は勝手に寝ますから。好きにしてください」
「お前、どれだけ警戒心がないんだよ」
などとブツブツいいながら、すでに漫画を手に取っている。

そして、気がついたら私はソファーで眠っていた。