もう、恥ずかしさしかない。
入院の長い患者には見知った人も多いから、イヤでも声をかけられてしまうし、

「どうせなら戻ってくれば?」
夏美も笑っている。

「もー、やめてよ」
「はいはい冗談です。今は患者のお母さんだものね」
「まあね」
いまだにお母さんって呼ばれることには慣れない。

結婚してからも、公は嘱託医のまま。
もちろん、どちらの病院からも常勤医にって誘ってもらっているけれど断り続けている。

それには理由があって、

「もうすぐ開院ですか?」
病棟師長に聞かれ、
「ええ」
つい頬が緩んでしまった。

あと数ヶ月もすれば、郊外で実家にも車で30分ほどの場所に宮城ファミリークリニックが開院する。

公が内科を、私が小児科を診る小さなクリニック。
そこで私たちの新しい生活が始まる。

外面が良くて、本当は頑固で俺様な公。
意固地で、かわいげがなくて、さみしがり屋の私。
勇大はどんな大人になるんだろう。

この先の人生に不安がないわけではないけれど、今はただ公を信じてついて行こう。
私が愛し、私のことを心から愛してくれた初めての人だから。