両親が離婚して数日は、母のいない生活にどこか味気なさを感じていた。

でも、勉強しろという母の圧力がないからか、私は友達と遊ぶことが出来た。

学校帰りは寄り道をして、遊びながら帰って、家に着いたらまた遊びに行って。

そんな生活を、父は今しか出来ないと言った。


ある日、父は私に言った。



『紫、母親が欲しいか』



そういう父の目を見て、私は決して、欲しいとは言えなかった。


確かに、いらないといえば嘘になる。
しかし、あの人のような女が来そうで、怖かった。

女という生き物は、実に残酷で自分勝手な考えを持つ。

それは母のこともそうだが、自分のことでもある。



『...お父さんは?』


『お前の意見を、尊重するだけだ』



話を聞くと、あの母との再婚らしい。
“あの子には私がいた方がいい”


その考えが、断ろうとする父の口を閉じさせた。

でも私には、あの母はもういらなかった。


私が欲しい母親は、まるで父をそのまま女にしたような、優しくて、包容力のある人。



『ううん、いらないよ。』


『...そうか』


『私には、お父さんだけで十分だよ』


『でも俺は...お前の面倒を見てやれないだろう』


『そんなことないよ、どうせ夕方は勉強してるか遊んでるかだし、面倒なんて関係ないよ』



そう言う私に、酷く安心した父を覚えている。