あの日溺れた海は、

そんなわたしに相反して先生はいつもと同じ飄々とした顔で座って書類を眺めていた。

わたしを見ると、座るように目線で促して、また書類に目線を戻した。



「小説家、ですか。」

そう独り言のように呟く先生にわたしは小さく頷いた。

その意味ありげな言い方に、否定されるのではないのかと急に不安が募った。しかしそんなものはすぐに杞憂となった。


「良いんじゃないですか。志望校も。あんな間抜けな検索ワードで調べたにしてはちゃんとしてる。」



至って真顔で頷きながらそう言う先生の言葉にわたしは、褒められてるのか貶されてるのか分からず「はあ。」と気の抜けた返事をした。


「中間テストの結果もまずまずですしね。今程度の学力があればおそらく井上さんなら余裕でしょう。文学部を目指すのであれば─」


先生は受験科目や進路について何もわかっていないわたしに詳しく解説をしてくれた。


そんな親身な態度に意外性を感じて一瞬驚きながらも、厚意を無駄にしたらダメだ、と真剣に話を聞いた。

もしかして、あの日進路相談室に来たのも、こういうことを調べる為だったのかな。と思ったら、つくづく読めない人だと不思議と感心した。