あの日溺れた海は、



「あ。」


部室の前に行くと黒いロングヘアの女の子が立っていた。見たことのない顔。しかし文芸部の部室を真っ直ぐに見据えているその瞳に、おそらくこの子が見学者なんだろうと思い、足早に駆け寄った。


その子もわたしに気づいたのかこちらの方を向くと、少し目を細めてわたしをじっと見た。


「あの、文芸部の見学の子、ですよね?」


わたしがそう問いかけると、その子はただ首を縦に振った。わたしはその態度に戸惑いながらも、自己紹介をした。


「部長の井上華です。お名前は…?」


「山崎李子です。」


そう言うと彼女はぷいっと顔を逸らした。初対面なのに既に嫌われているような気がしなくもないが、ひとまず「よろしくね。」と苦笑いとともに彼女に返した。


それからいつものように部室の鍵を開けて、山崎さんにも中に入るように促した。


「よかったら、ここに座って、隣の椅子に荷物を置いてね。」


部室の隅から使われてない椅子を2つ持ってくると、わたしは彼女にそう声を掛けた。
彼女は無言で荷物を置くと、ストン、と腰を掛けた。


気まずい沈黙が流れる中、早く月たち来てよ~!と心の中で涙を流しつつ、わたしも荷物を置こうと自分の机へ向かった。