あの日溺れた海は、



「…誕生日って聞いてないです。」

「聞かれてないですから。」


車に乗り込むと不貞腐れながらそう言うわたしに、先生は冷静にそう返した。

そりゃそうだけど!聞かなかったわたしが悪いけど!

でも誕生日くらい教えてくれてもいいのに。
そしたらプレゼントだって渡せたし、0時きっかりにお祝いだってしたかったのに。



「今日こうして井上さんといられることがプレゼントですよ。」


不満を胸の中で悶々と抱えていると、それを読み取ったかのようにそうさらりと言ってのけた。

その言葉で全てを許してしまうし、なんならさらに恋に落ちてしまう。先生は罪な男だ。


返事の代わりにふう、とため息をついて窓の外に目をやった。目の前には海が広がっている。


揺れる波に太陽の光が反射して、ホログラムのようにキラキラ輝いている。


海は青空を映し出して真っ青に染まっている。


こうして先生と一緒にいれば、海だってこんなにも美しく見える。


「…食後の運動がてら、散歩でもしますか?」


じっと海を見つめているわたしに気付いたのか、先生は少し遠慮がちにそう聞いた。

先生と一緒なら大丈夫だと思えた。

科学的にも医学的にも根拠はないけれど、なぜかそうだとはっきり言えた。