あの日溺れた海は、



「お腹空いてないですか。」


ハイウェイをドライブし始めて1時間ほど経った時だった。

他愛のない会話をしながら車を走らせてると先生は不意にそう聞いた。


確かに少し空いてきたかも、と思い素直に伝えると、「じゃあ、先にご飯を食べようか。」とハイウェイを降りて車を走らせた。


「あ、ここ…。」


目の前に広がる海岸線に既視感を覚えて声を上げると、先生も気づいたようで「ああ。」と答えた。


ここはわたしたちが夏合宿で訪れた海だった。先生の向こうに覗く海に、あの日の情景が鮮明に頭の中に思い浮かぶ。



『井上さん…??』


『せんせ…?』


わたしを助けてくれた命の恩人。


冷たくあしらわれたり、自分の気持ちが認められなくて素直になれない時もあった。

誰かに嫉妬して、つらい時もあった。

先生に気持ちを受け入れてもらえなくて生きることさえままならない時もあった。

それでも今こうして隣にいられることは奇跡なんだなと、噛み締めた。


「懐かしいですね。」


先生も夏合宿の時のことを思い出していたようで、海をちらりと見ながらそう呟いた。