あの日溺れた海は、


「そういえば、先生に聞きたいことがあるんです。」

車が走り出して少し経った頃、丁度ハイウェイの入り口を通過した時。

意を決して先生にそう尋ねてみると、先生は少し躊躇った後、「…答えられる範囲でなら、答えますけど。」と予防線を張った。

そう言われたらもう答えてくれないかもしれないと思いながらもわたしは続けた。


「あの、夏合宿の写真を渡した時、…先生は受け取ってくれなかったんですか?」


「ああ、それは…、あの時の私は丁度父が倒れて、入院して、と正直疲弊してたんです。

でも写真の中の自分は自分が思ったよりも頬が緩んでいて、楽しそうで、…そんな写真を手にしたらまた何かを失ってしまいそうな恐怖に駆られたんです。

今となっては、本当に悪いことをしたと思ってますけど…怒ってますか?」


そう柄にもなくおずおずと聞く先生に、わたしは思いっきり首を振った。


「そんな、わたしこそ、すみません…。」


項垂れたわたしをみると先生は「井上さんが謝ることじゃないのに。」と笑った。


そんな先生につられてわたしも笑った。