あの日溺れた海は、


それなのに、どうしてこうなったのか。


「どうしたのかしらね。何度掛けても繋がらないのよ。」


不思議そうにそう言う保健室の先生にわたしはぎこちない笑いを返した。

これでも満身創痍だ。


「でもよかったわあ、この時間、藤堂先生だけは空いているのよねえ!」


先生は朗らかにそう笑うと藤堂先生に向かって「じゃあお願いしますね」と軽くお辞儀をした。


よりによって、なんで、今。

この人と二人きりにならなきゃいけないんだろう。

神様はとことん意地悪だ。
そう思って天井を睨んだ。

無言で廊下を歩く先生の背中をわたしも無言で追いかける。

もう5時間目の授業が始まったのか、廊下には二人の足音だけが響く。それが更に気まずさを搔き立てた。


わたしなんかよりも到底広いその背中を見ただけで閉じ込めていた気持ちがあふれだしそうになって、悔しくなって、下を向いて早足で追いかけた。



昇降口で靴に履き替えて教師用の駐車場に向かうと、先生は既に車の助手席側に立っていて、わたしが近づくと助手席側の席を無言で開けた。


わたしは小さい声でお礼を言うと車の中に乗り込んだ。


あー、別に好きでなくても、誰でも助手席に乗せちゃう感じなんですね。

そう心の中で呟くと、あの雨で転んで足をくじいた日、助手席に乗っていいのか、後部座席に乗るべきか迷っていた自分が馬鹿みたいに思えてきて、唇を噛んだ。