あの日溺れた海は、


それからしばらくの間、わたしは執筆に打ち込んだ。


授業が終われば部室に引きこもって、家に帰ったら寝るまで自室に引きこもって、夜に目が覚めたら眠くなるまでまた書いて。


そのうち日中に堪えられなくなって休み時間の間に眠ることが増えた。

亮が見兼ねてわたしに声を掛けても大丈夫、と突っぱねることが増えた。


月が遊びに誘っても断ることが多くなった。


周りが見えてなかったし、自分のことすら見えてなかった。


自分の身体の限界をとうに越していることに気づきもしなかった。


そんなことより今書く手を止めたらまた気持ちがあふれてきて今度こそ完璧に押しつぶされそうになりそうだから。



そしたら限界の限界を超えたみたいで、わたしの身体は力を失ってふにゃふにゃと地面に倒れた。


黒い体操ジャージがグラウンドの黄色い土に汚されていく。


『せんせ!井上さんが!』


『華ちゃん!?』


女の子たちの悲鳴が遠くに聞こえた。


『おい、井上!』


『はなぁ!死なないで!!』


体育教師の野太い声と、姫乃らしき声の鳴き声とともに身体が揺れる感覚があった。



馬鹿だなあ。死ぬわけないでしょ。


そう言って笑いたいのに、それすらもできない。


身体に全く力が入らない。


それからとろんと溶けたような感覚に襲われる。


ああ。本当に死ぬのかな。