あの日溺れた海は、


「…いえ、ただ、亮を失いたくないんです。」
 

うまく言葉にできず、涙を溜めた目で再び空を仰いだ。先生は「そうか。」と静かに呟いた。
 

わたしの言葉に対して否定をするわけでもなく、アドバイスを送るわけでもなく、ただ相槌をしてくれるのが心地よかった。

 
何も言わずにただ優しく見守ってくれているみたいで、不思議な安心感があった。
 
 


「なんか…先生に話したらスッキリしました。」
 
 
そう言ってベンチから立ち上がると、ゴミ箱の中に空缶を入れた。
 

自分の気持ちを素直に口に出すことは怖くないって、今わかった。
 
 
「ココア、ごちそうさまでした。あ、勝手にホテルに出た説教は明日聞きます。じゃあ。」
 

そう言って逃げるようにスタスタと歩き出した。が、すぐに踵を返して先生の元へと戻った。
 
戻ってきたわたしをぽかんと見つめる先生に、私はポケットから出した紙袋を渡す。
 
  
「月と一緒に先生へお土産買ったんです。じゃあ。」 
 
 
そう言って今度こそ歩き出した。亮の元へ。