あの日溺れた海は、


 
「一旦、タクシーに乗って帰ってきて欲しいって。武田さんと、もう1人。」

谷くんは電話を切ると皆にそう伝えた。
  
「俺がいくよ。」
 
みんなが顔を見合わせる中亮は堂々とそう言った。

「武田さんが歩けないならおぶれる俺か谷がいいだろ。谷は班長だし、俺がいくよ。」
 
 
そう言う亮に「わかった、ありがとう。」と谷くんは告げた。

そのまま運良くきたタクシーを捕まえて、武田さんと亮はホテルへと戻っていった。
 
 
「さて…どうしよっか。」 
 
谷くんが私たちの顔を見渡してそう言った。

今の一瞬の出来事で皆暗い顔をして、谷くんの問いに答えられずいる。
 
今この状況で旅行を楽しもうなんて、できるはずがない。


 
「…わたしも、ホテル戻る。姫乃が心配だよ。」
 
伊東さんの涙声が長い沈黙を破った。

その言葉を待っていたかのように、わたしと谷くんもうんうんと頷いた。
 


「武田さんのことは好きじゃないけど、この状況で楽しめるほど悪人じゃないよ。私は。…いこっか。」
 
 
月がそう言うと皆足早にバス停へと向かった。