あの日溺れた海は、


金閣寺からバスを乗り継いで嵐山へと到着した。

古風な街並みに、奥に佇む山の紅葉が映えている。

バスから降りて渡月橋を渡っていく。
数々の映画の舞台となったり、写真でもよく見る有名な木製の橋は歩くたびに新鮮な気持ちになる。
 
そのまま真っ直ぐ行ってお土産屋さんや、お食事処が並ぶメイン通りへと進む。
 
「華見て!これ、可愛くない?」
 
月がそう言って指で示す先には、無愛想な顔をした鹿のストラップがいた。あ…─


 
「藤堂先生みたいっしょ!」

 
わたしが心の中で呟いたと同時に月が笑いながらそう言った。
 

くすり、と笑うとそのキーホルダーを手に取った。

切長の目にムッとした顔は藤堂先生そのものだ。もはや藤堂先生をモチーフにして作られたと言っても過言ではない。


ほしいな…と思ったけど、こんなの買ったら月に先生のことが好きだとバレてしまう。


いや、いつかは言わなきゃいけないことはわかってるけど、今はまだわたしの心の中に隠しておきたい。自分がどうしたいのかもわからないし。

だから気持ちを抑えて手に取ったキーホルダーを返そうとしたその時。