あの日溺れた海は、


 
「井上さん。あの子には絶対俺のLINEとか電話番号を教えないで、いや、誰にも教えないでください。」
 
 
そう真剣に言う先生にわたしも神妙な顔して頷いた。が、心の中ではニヤケが止まらなかった。
 
わたしと先生だけの秘密。誰にも絶対教えてあげない。

 いまはそれだけでいいの。
 
 
 
先生が気を取り直して「じゃあ」と言った瞬間。
 

「藤堂先生〜!」


またもや鼻にかかる甘い声。でも今度は先程の声の主とは違った。
 
 
「数学教えてください〜!」
 
  
そう言いながらズンズンと歩いてきたのは、武田さんだった。

そしてその後ろには「なんで俺も一緒に勉強するんだ?」とでも言いたげな表情をした亮がいた。
 
 
亮はわたしに気づくと少し驚いたような顔をしたがすぐにキッと怖い顔をした。

わたしはそんなに亮を怒らせてしまったのかと申し訳なくなったけど、武田さんのキューピッドになれるくらいならこれくらいの方がいいんだと自分に言い聞かせた。