あの日溺れた海は、


「じゃあ、伏見稲荷行きたい人〜」

そう言われて手を挙げたのは武田さんと伊東さんだけだった。武田さんは一瞬ムッとした表情になった。が、すぐにいつもの顔になった。
 
 
「あ…じゃあ嵐山だね。ごめんな、武田さん。」
 
亮がそう申し訳なさそうに言うと武田さんは笑顔で「大丈夫〜みんなでいければどこでもいいよ」と返した。
 
「ごめんね〜武田さん」
 
 
月も殊勝な笑みを浮かべてそう返した。
 
 
「いいえ〜。まあ原田さんには古き良き、がわからないもんね。」
 
 
そう嫌味を含んで言う武田さんに月はキッと睨みつけた。
 
 
「まあまあ、とりあえず、嵐山って事で。そっちの方面行くんだったら金閣寺とか、龍安寺とかも一緒に回れそうだよね。」
 

2人を諌めるように谷くんが口を挟むような形で提案した。
 

「お、壬生寺も遠くないじゃん。ここ、華が行きたいって言ってたとこ…」
 
 
机の上に広げた地図を指差しながらそう言う亮をチラリと見るとバチリと目が合い、気まずそうにまた逸らし、語尾がだんだん小さくなっていく。
 
 
「え!じゃあいこいこ!ね、いいでしょ?」
 
そう言いながら班のみんなを見渡すと、谷くんと伊東さんはうんうんと頷いてくれた。

亮は首を縦に振ることはなく、ただ気まずそうに地図を見つめていた。

武田さんは少し不満げな顔をしていたが、否定をすることはなかった。
 
 
亮とは何と無く居心地が悪い雰囲気が流れているし、月と武田さんは事あるごとに言い合いになるし、なんとなく不安を抱える中、その日の話し合いは終わった。