あの日溺れた海は、



「…あんた、馬鹿?」

某有名アニメの女の子さながら、真顔でわたしに吐き捨てる喬佳に、いい案だと思っていたばかりに内心ショックを受けていた。

あの原稿用紙が戻ってきてから数日後の部室。
机の上には、この数日で書き上げたショートショートの原稿用紙とともに赤ペン先生に向けた手紙がセットされてる。


「来るかどうかも分からないのに。」


そう言う月に、わたしは「きっと、来てくれるもん。」と返した。根拠はないけどまた来ると信じたかった。


「今度こそ本当に盗まれたらどうすんのよ。」


喬佳は呆れた顔でそう言うと深くため息をついた。


「華って、こういうところ、抜けてるよね。」

そんな玲の声を無視してわたしは「もーいいの!」と押し切って部室の電気を消して、鍵を閉めた。






「おーい、華!」


学校を出て、駅までの道を歩いているところを聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返った。
その声の主である亮は、ジャージ姿にエナメルバッグを斜めにかけてわたしの元へ駆け寄ってきた。


「お疲れ。華も部活だったんだ。」

そう言って白い歯をきらりと覗かせて笑う彼に、わたしも「お疲れ。」と返した。


そんなわたしの顔をジロジロと見る亮に、恥ずかしくなって目を逸らすと「何?」と少しぶっきらぼうに言い放った。


「いや…なんか楽しいことでもあった?」


亮はわたしの態度なんて気にも止めずそう返した。
楽しいこと、楽しいこと…。授業もこれといって楽しいものなんてないし、最近は部活も緩く活動している程度だ。