あの日溺れた海は、


  
「…のうえ、井上!」
 
 
そんなことを頭の中でくるグルと考えていると突然名前を呼ぶ声がした。
 

「聞いてたか??ここテスト出るぞ!」
 
 
授業中だということを忘れていた。クラスの視線が全集中していることに気がつくと顔を真っ赤にして「はい」と小さく答えた。
 
 
ちゃんと集中しなきゃ。しっかりして。
 
 
そう意気込んでも先生のことを考えられずにいられなかった。
 
 
 
わたしが昨日部室で寝落ちしていなかったら。
先生は風邪ひくことなんてなかったかもしれない。
 
 
「はな」
 
 
再び声をかけられてびくりとして顔を上げるとそこには不安げな亮の顔があった。
 
 
「どした?なんかあったか?」
 
いつの間にか休み時間になってたらしい。亮は前の席に腰を掛けるとこちらを向いてそう聞いた。
 
藤堂先生がわたしにジャケットを貸したせいで風邪をひいたかもしれないけれど、きっと彼女がいるから看病してもらってると思うけど本当は彼女なんていてほしくないしわたしが様子見に行たい。
 
 
 …なんて言える訳ない。「えっと、…」と言い淀んで適当に誤魔化そうと思ったけど、亮はわたしが話すのを待っているようだった。
 

亮の厚意を無駄にするのも申し訳ないと思い諦めて口を開いた。