ああ、幸せ。
でももう帰らなきゃ。
切ない気持ちを閉じ込めて、「じゃあ、さようなら」と言って背を向けると、先生は「待って。」と言って制した。
「今日、急に冷え込んだでしょう。これ。」
そう言って机の上に置いてあった缶を差し出した。よく見るとそれはわたしがよく飲んでいるホットココアだった。
偶然?それとも知ってて?…いいやそんなわけないけど…期待しちゃう。
手の震えを悟られないように平然とした顔で受け取ると、手のひらからじんわりと暖かさが広まった。
「ありがとうございます。」
そう言ってペコリと頭を下げると、先生は少し口角を上げて「どうも」と返事をした。
「じゃあ、さようなら。」
今度こそ、と背を向けてドアに手をかけたところでぴたりと止まった。深く息を吸って口を開いた。
「先生も、ちゃんと休んでください。」
そう言うと逃げるように教室を後にした。
このところ先生の目の下のクマが濃くなった気がしていた。それに少しやつれている感じも。
極め付けにはわたしにジャケットを貸したせいで身体を冷やしたのかくしゃみまで。
人の心配する前に、自分のこと心配してよ。
赤くなった顔をムッと顰めると、先生の優しさが胸に広がって涙が出そうになった。

