あの日溺れた海は、


 
「私は昔小説家を目指していたんです。それで…」 
 

 
 先生が口を開いたかと思えば突然の告白に、驚いて言葉を発することができず、ただ目を丸くして先生を見つめた。そんな私を無視して先生は顔色を変えずに続けた。
 
 
「私も井上さんと同じように高校生になっても恋心を知らなかったんです。」
 
 
 そこから先生は懐かしむようにどこか遠くを見つめながら続けた。
 
 


 たまたま告白してきた子の恋心を利用して好きでもないのに付き合ったこと。
 流れで初めて身体を重ねたけど、何の感情も抱けなかったこと。
 そのことを書き記したノートを彼女に読まれて跡が残るほど強くビンタされたこと。
 

「それからなんとなく恋心がわかって、なんとなく恋愛をしてみたりしたけど…言語化するのは難しいですね。」
 
 
 
先生はそう話を締め括ったが、わたしは恋愛以前に突っ込みたい所が山ほどあった。