あの日溺れた海は、


 

 
 月がお勧めしてくれた本も亮とのデートも私にはいまいちピンとこなかった。
 
 わたしには誰かを想って涙する気持ちも、誰かを恋しく思う気持ちも、想像はできるけどそれが感情の描写が出来るほど深くはない。
 
 経験したことのないことなんて書けるはずもないんだ。
 
 
 でも、
 
 もっと大人に教えてもらった方がいいんじゃない?

 知りたい。わたしも誰かを恋しく思うことができるのだろうか。誰かに特別な感情を抱くことができるのだろうか。その先に見える景色は抱く感情を知りたい。そうすればもっと人の心を動かす作品ができる。
 
 
 だから、わたしは一歩前へ進んだ。断られるかもしれない、適当にかわされるだけかもしれない。でもそんなことはないって心のどこかで信じていた。大丈夫。
 
 
 そう思ってある日の放課後、数学準備室のドアを叩いた。