あの日溺れた海は、


「あ、いた。はな〜…と、藤堂?」
 
 
 声の方に振り返ってみると亮がこちらを指差しながらキョトンとしていた。外で学校の先生に偶然会うなんて滅多にないことだから当たり前だ。
 
「なんでここにいるんですか?」
 
 大股で近づくと少しムッとしたような顔で先生を睨むように見た。その表情で亮の中では私が先生のことを苦手だと思っているままだったのを思い出して頭を抱えた。
 
 そんなことも露知らず、亮の交戦的な目に気付いているのか気付いてないのか何も読み取れないいつもの顔で「本を買いに来たからいるのですが。ここは本屋ですし。」と返した。
 
 すると亮はいきなり私の手を掴んだ。突然のことに踊って驚きを隠せず亮に視線を向け目で訴えるも、亮は真っ直ぐ先生を見つめたまま口を開いた。
 
 
「じゃあ、俺たちデート中なので」
 
 
 そう言い放つと私の腕を強引に引っ張ってずんずんと出口へと向かう。
 
 
「ちょっと、亮!お会計まだなんだけど!!」
 
 
 出口からすんでの所でグッと立ち止まってそう叫ぶと吊り上げていた眉を下げて「ご、ごめん」と小さく呟いてそのまま手を離した。
 
 
 亮に強く握られた手首が少し痛んだ。でもそれよりも手の甲に残るピリピリとした刺激が何なのかわたしにはわからなかった。