「だって、初めてなんです。昔のことを自分から話すのは。それも親友でも恋人でもないただの副担任の先生に流れで言ってしまって…。」
遠くから聞こえる歓声にかき消されてしまいそうな小さな声で語り出したわたしに、先生は驚きの色を見せながらも静かに相槌を打った。
「恥ずかしいし、いきなり重たい話をしてしまって申し訳なかったし、迷惑じゃなかったかなって思ってないかって心配になってしまうし、…。」
そう話しているうちに目が潤んでくるのが分かって、わたしは話すのをやめて、下唇を噛んで必死になって堰き止めた。
そんなわたしを見る先生はいつの間にかいつもと同じ無表情で、でも優しく頷いてくれた。
「ただ、揶揄うつもりで言っただけの事ですが、そんな顔をさせてしまうなんて。…すみません。私は迷惑でもないですし、申し訳なく思う必要などないですよ。」
いつものように抑揚のない声だけど、わたしを真っ直ぐに見つめてそう言う先生に嬉しくて、「…ありがとうございます」と返した。
「それが教師の仕事ですので。井上さんが思い悩む必要などないですよ。」
"教師の仕事"という言葉に少し寂しさを覚えつつもその感情はグッと飲み込んで心の奥へと仕舞い込むと机に向き直ってレポートに再び取り掛かった。

