あの日溺れた海は、


 
 
『ペスはどうくつの中へとはいるとそのくらさにブルブルとみぶるいしました。
 
あやしいコウモリのなきごえ、ピチョ…と水がおちる音。』
 
 
文を読みながら想像をして同じように身震いをしながらも読み進める。
 
 
 
『さあ、たかのせなかにのって空をひとっとび!
 
びゅうびゅうとふく風はさいしょはこわかったけど今はここちよくふいています。』
 
 
その瞬間にわたしの身体にも風が駆け抜けたような爽快感を感じた。不思議な感覚。何だろう、と思いながらも読み進めていった。
 
 
 
『ペスはぎゅっと目をつむって水の中にとびこみました。
 
 おそるおそる目をあけると、そこにはたくさんのおさかなさんたちがおよいでました。
 
 
 『おさかなさん、ぼくにおよぎかたをおしえてくれないか』
 
 
 ペスがそういうと、おさかなさんたちは『もちろん!』といいました。』
 
 
 
そこまで読んだ瞬間目の前に水の青が広がった。飛沫が上がる。少し歪んだおかしな世界。
 
 
『おさかなさんはいいました
 
『ただいっしょうけんめいバタ足をするだけだよ』
 

そうしておよいでいってしまうのでした。』
 
 
頭の中で魚においつこうと必死にバタ足をするわたしがいた。

息苦しさも吐き気も何もなかった。
それなのにわたしは今れっきとした海のなかで泳いでいる。
 


こんな世界があったんだ。
 
 

絶望しかなかった日々に水面から差す太陽の光のように一筋の希望が差し込んだ。