あの日溺れた海は、


 
 
その後どうやって海から上がって、家に戻ったのか記憶がない。いつも間にか亮の肩にもたれていたし、いつの間にか水泳教室も辞めていた。


コーチのこともどうなったのか知らない。知りたくなかった。
 
 
水泳が好きで、神童とまで呼ばれた女の子は、いつしか海を見るたびにあの日の出来事がでフラッシュバッグし、プールの塩素の匂いを嗅ぐだけで吐き気を催し、水に浸かるだけで過呼吸を起こした。
 
 
あんなに水が好きだったのに、あんなに泳ぐのが好きだったのに、身体が拒否反応を起こしてしまうことが辛かった。


また泳げるようになって、たくさんの賞を取って、みんなに褒められたい。お父さんとお母さんを笑顔にしたい。

そう思って何度も挑戦したけれど、その度にあの日をより鮮明に思い出すだけだった。
 
 
将来が楽しみね、とスクールから帰ってくるたびに笑いながら話していた食卓も今はなんだかぎこちなさが残った。
 
 
 
もうわたしはこれからずっと水に触れられぬまま生きていくのだろうか。


水の爽やかな冷たさも、水の中の澄んだ世界も、湧き上がる水飛沫も、感じられぬまま生きていくのだろうか。
 

あんなに好きだった水泳も、オリンピック選手になる夢を追いかけることもできないのだろうか。
 
 
学校での水泳の授業も先生に特別に許可を得て見学にしてもらった。

みんなが自由に泳ぐ姿を見て悔しくていつも泣いていた。