あの日溺れた海は、


その音の方へ視線を向けると、緑のマフラーをしたペンギンがウインカーレバーにぶら下がっていた。


紛れもなく合宿の帰り道、車内で先生にプレゼントしたものだった。



「…あの。」


揺れる心を抑えると、わたしはゆっくりと口を開いた。
 
 
 


「わたし、幼い頃は水泳が得意だったんです。
 

自分で言うのもなんですけど…色々な大会で賞をもらったり、所属していたスイミングスクールもオリンピック選手を輩出していたり、名門と呼ばれるところだったんです。
 
どんどん水泳にのめり込んで、将来はオリンピック選手になろうって決めてたんです。」
 
 
雨の音にかき消されそうなくらい小さな声なのに、先生はうんうん、と静かに頷いてくれた。
 

「でも、ある時に新しいコーチが就任したんですけど…親が見ていないのをいいことに、叩いたり、賞が取れないと罰と称して何時間もプールサイドで正座させられたり。
体罰とか、パワハラって言うんですかね。その頃はそんな言葉は知らなかったし、できないわたしたちが悪いんだって思い込まされてましたから…。
 
どんどんスクールに行くのがしんどくなって、スクールバスを待っているといつもお腹が痛くなったり、吐き気がするようになっちゃったんです。
 
水泳をしてても楽しくなくて、時々息継ぎさえままならない時があったんです。
 
でも周囲の期待の目から背を向けることができなくて。」
 
 

 
 
 

 
 もう5年前にもなるのだろうか。それでもすぐそこにあの日の情景が浮かぶ。