あの日溺れた海は、


 
 
先生の車は、合宿の時に乗った車とは違い、黒の所謂SUVと呼ばれるものだった。

その車に乗り込むと、思わず「あ。」と呟いた。
そんなわたしの声に気づいたのか、先生はこちらを見て「何か?」と聞いてきた。
わたしは「いや。」と濁すと、先生もそれ以上追求することもなく、車が走り出した。

だって、言えるわけがない。

微かにあの原稿用紙から漂ってきた香りがしたって。

なんというか、変態チックだ。


やっぱり藤堂先生が赤ペン先生だったんだなあ、なんて今更どうでもいいようなことを再確認した。
 


 
雨の中車が走り出すと、車内にはワイパーの音と先生が設定したカーナビの音のおかげで、無言でもそれほど気まずさは感じなかったが。


なんとなく手持ち無沙汰になって外の景色を眺めていると「そういえば」と先生が突然口を開いた。