あの日溺れた海は、


「失礼しま〜す…」

 
 小さく呟きながらドアを開けると古い紙の何とも言えない匂いが鼻をつく。
窓から入ってくる風が緊張で少し上気した頬を冷やす。
ドアの斜め横にある席でパソコンでカタカタと仕事をしていた藤堂先生はチラリとこちらを見ると「お」と小さくつぶやいてまたパソコンに視線を戻す。
 
 
「悪いけど、そこ座って待っていてくださいませんか。」
 
 

 そう言う先生の声はいつもと変わらない様子で、一人気まずさとか葛藤とか抱えてるわたしが子供っぽく思えてきて、大人しくドアの近くの椅子に腰をかけた。


 秋の息吹を感じる涼しい風が室内に吹くと、あまりの心地よさに私は目を閉じた。…