あの日溺れた海は、


「今のが私の番号ですので。今日みたいに宿から離れるときとか、他の部員に怪我とか体調不良とか出たりしたらすぐに連絡ください。」


そう言うと、やることがあるので、と先生は颯爽と部屋に戻っていった。


一人取り残されたわたしは「ああ」と勝手に納得すると、椅子に座ってココアの残りを口に含んだ。


カカオの香りが鼻を突き抜けて、それから口の中に甘さが広がった。


業務連絡用とはいえ、教師と番号を交換したことがなかったわたしは、なんとなくいけないことをしているような気分になった。


いや、業務連絡のためという正当な、不純ではない理由があるのだからいけないなんて思うことはおかしいのだけど。




そう考えながらも携帯を取り出すと、先生の番号を長押しして、登録名に『藤堂先生』と入力した。




しかしすぐにその文字列を消去して、少ししてから『赤ペン先生』と入力して携帯をポケットにしまった。