この恋は、『悪』くない。


樽崎くんがアメから

急に私に顔を向けたから

ビックリした



また

緊張する



「沙和」



樽崎くんは

アメオを拾った時みたいに

中学生の時の顔をしてた



「ん?なに…?」



「沙和ちゃん」



沙和ちゃん?



「な、なに?」



「うん
沙和って呼んだ時の顔の方が好きだから
沙和にする!」



「え?」



猫の名前をつけるみたいに



「沙和」



私を沙和って呼んだ



「て、ことで…
山咲じゃなくて、澤村じゃなくて
沙和な
あ、ずっと沙和だったか…フ…」



樽崎くんが

近くて

ドキドキする



「そんな、こわがんなよ
別にオレ、食ったりしないから…」



違う

こわいんじゃない



距離感が近いの

変わってないね



あ、樽崎くん

視力悪いんだもんね



近くないと

よく見えないのか



「フ…サワサワ…ウケる」



樽崎くんが

また笑った



さっきまで

弱音吐いて

寂しそうだったのに…



樽崎くんは

笑ってた方がいいよ



「フフ…ハハハハ…」



私も可笑しくなって笑った



「自分で笑ってるし!」



「うん
樽崎くんが笑うから
なんか、おかしかったの!」



「うん
いいと思う

沙和の笑顔
見てると幸せになる」



そんなこと

言わないでよ



でも

嬉しくなる



「ホント?
じゃあアメいなくなったら…とか
弱気なこと言わないでね!」



「うん…
じゃあ、また来る?」



「え?」



「え?じゃなくて…
また笑顔見せてくれるんだろ」



「それは…

来ても、いいの?」



「せっかく沙和って呼んだのに…

今日で終わりだったら
わざわざ沙和なんて呼ばねーけど…」



来ても

いいのかな?



樽崎くん

彼女いるのに…



きっと私だから言うのかも



世界が違うから

そーゆー対象から外れてるから



それならいいのかな?



「じゃあ、たまにアメに会いに来ます
樽崎くんの彼女さんもアメのこと
可愛がってくれてるの?」



「アメのことは
誰にも触らせてない
公園で拾った時から
オレと沙和しか、触ってない」



「こんなにかわいいのに?」



「うん、かわいいから…
だから、誰にも触らせない

それから
アイツらが言ってた彼女って誤解だから」



「誤解?」



「彼女って、アメのことだから…
オレがいつも早く帰りたがると
また彼女かよ…ってしつこいから
めんどくせーし
家に彼女いることになってる」



「え、ウソ…」



「や、ウソ…
あ、こっちがホントか…
アイツらにウソついてる」



なんだ



「フフ…ハハハ…
美人な彼女さんですね」





ホッとしてる?



「だろ!

だから
いつでも来いよ
アメに会いに…

ここ今オレとアメしかいないから
ずっと鍵開いてんの
オレいなくても勝手にあがっていいから…」



ニャー…



ホントに来てもいいのかな?



「じゃあ、気が向いたら、来ますね」



「敬語やめろ
もぉ、来ない気する」



樽崎くんが

アメを抱いてる私の腕を掴んだ



大っきい手



また勘違いしてしまう

同じ世界にいるって…



アメを樽崎くんの手に戻した

樽崎くんの優しい手は

アメのためにある



ニャー…



「アメ、よかったね
素敵な彼氏だね
またね…」



ニャー…



樽崎くんの顔を見たら

捨て猫みたいな顔してた



そんな

寂しそうな顔しないでよ



アメがいるじゃん



「実家近いから
たまにこっち来るので
またアメに会いに来るね…たぶん…」



「たぶんじゃなくて…絶対来いよ
コイツ、待ってるから…」



「はい…
あ、うん…」



樽崎くんの顔は

髪で隠れてよく見えなかったけど



たぶん

笑ってる気がした