この恋は、『悪』くない。


「沙和…」



頭の上から

樽崎くんの声がした



「え?」



思わず顔を上げた



「沙和でしょ」



「え…」



目の前にいる樽崎くんから

私の名前が聞こえる



「フ…やっぱ変わったとか言う?
山咲の下の名前」



「え…変わってないよ」



樽崎くんが

私の名前を知ってた事

私の名前を覚えてた事

私の名前を呼んだ事



全部に

驚いた



「そんなビックリすんなよ
間違ったと思ったじゃん!」



「あ、ごめん、なさい…」



「澤村沙和

澤村沙和か…
なんか…」



「うん…
よく言われる
サワサワって…」



「フ…ハハハハハ…」



「そんな、笑わなくても…」



「ごめん…
山咲が自分で言うから
なんか、ツボった…

久々、笑ったかも…」



「ね…
笑えるよね…

離婚するなら
その時の事も考えて
子供の名前付けるべきだよ…」



お父さんも

お母さんも

名前考える時に

気付かなかったのかな?



だいたい

なんで

離婚なんか…



あの時は

納得できなかったけど

今となっては

仕方ない事として処理してる



「そんな親、いないだろ

誰も
離婚するつもりで結婚しないだろ

オレも親死んだ時、思ったよ
なんで死んでんの?って…
オレ残して勝手じゃん…て…

でも
死にたくて死んだんじゃないからさ…

だからオレさ
アメ飼う時
絶対アメが死ぬまで死なない!って
心に誓って飼ったんだ

アメがいたから
ここまで来れたのかもしれないって
今では思う

アメ…
あと何年くらい生きてくれる?

アメ…
アメがいなくなったらオレ…
生きてられるかな…」



ーーー



樽崎くんが

私が抱いてるアメを撫でて

キスした



あ…

この光景

見たことある



10年前



樽崎くんは

あの時と違って

大人になってるのに



綺麗で

純粋で



どこか

寂しげで



また

見惚れてしまった