この恋は、『悪』くない。


プッ…



駅に向かう途中

車のクラクションがなって

横付けされた軽トラから

樽崎くんが覗いてた



ん?



私にならした?

私を見てる?



睨まれてる?





助手席の窓が開いて



「乗れば?」



樽崎くんの声がした



ん?

私?



首を傾げたら

樽崎くんが頷いた



「材料取りに行くから
ついでに送る」



樽崎くんが言った



乗ってもいいのかな?

躊躇う



「早く!」



「うん…ありがとう…」



なんで?



怒ってる?



「ここ真っ直ぐ?」



「あ、はい…うん…
次の信号、右で…」



「具合、悪りーの?」



「うん、ちょっと…」



「大丈夫?」



「うん、大丈夫…」



「熱ねーの?」



「うん、ないと思う」



カチカチカチ…



なんで

送ってくれるの?



なんで

心配してくれるの?



怒ってたんじゃないの?



「あの…」



「なに?ここ曲がる?」



「んーん…真っ直ぐ…
あの…
ごめんなさい
簡単に連絡先交換したりして…
そんなつもりなくて…」



「フ…別にオレに関係ねーし…」



「…うん…」



あー…

もぉ嫌われてる



関係ないよね

謝る必要なかった



怒ってないの?



やっぱり

ダメだ



なんか

辛くなる



「あの、ここで…
私、ここから、歩けるので…」



「近いの?」



「はい…
大丈夫です
ありがとう…ございました」



「また、敬語なんだ…」



敬語は無意識だったけど

たぶん

私なりの距離のとり方だった



「フ…倒れんなよ
じゃー、なんかあったら
ちゃんと旦那さんに連絡してください」



「え…」



「結婚してるんだろ
山咲が人妻とか、信じらんねー」



「え、あの…」



「結婚してるんじゃないですか?
澤村さん」



澤村さん…



あ…



「あの、私、結婚してないんです
親が離婚して、それで…」



「え…
なんだ…
なんか、ごめん…
なんか、スミマセン」



樽崎くん

私が結婚してると思ったんだ



「高校の時だったんだけど
あの時は、ちょっと辛かったけど…
でも今は大人の事情もなんかわかるし…
もぉ気にしてないから、大丈夫」



横を向いたら

樽崎くんは

遠い目をしてた



私のことなんて

どーでもいいか…



余計なこと

話しちゃった



「あ、そこ、左お願いします」



「はい…」



「あ、ここです
スミマセン
結局送ってもらって…」



これで

終わりかな

私たち



「独り暮らしなんすか?」



「あ…はい…」



よかったら、お茶でも…って言いたいけど

また軽いって思われるかな?



それより

そんな勇気も

気力も

ない



今日は

ダメだ



「ありがとうございました」



それから

さようなら



もぉ

コレで

終わりだ



車のドアを開けようとしたら



「あのさ…
見せたいものある
今度、うち来れる?」



「え…樽崎くんの、家?…ですか?」



「うん
オレはまだ実家」



「実家って…
え、ご家族とか…」



25歳の異性の実家行くとか

何もなくても

学生が遊びに行くとかと違うよね



「大丈夫、今はオレひとりだから…
ひとり…でもないけど…
実質ひとりだから…」



実質…

携帯会社のややこしい割り引きみたい



彼女と住んでるのかな?



「でも、私…」



「フ…別に、変な気もないから…
男子中学生みたいなことする気ないし…」



「でも…彼女いるって聞きました」



「あー…アイツらが言ってたの?」



「ん…」



「まぁ…」



やっぱり

いるんだ



じゃあ行けないよ

彼女さんだってきっとよく思わない



樽崎くんだって

軽いじゃん



でも私だから

いいのか



変な気ないって言ったもんね

私は異性に入らないか

だから簡単に家に呼ぶんだ



「見せたいもの…って…?」



「たいしたものじゃないけど…」



「じゃー、今度…」



「フ…うん、今度…」