ラーメン屋さんの近くのコンビニに
ひとりで寄った
森谷さんは
一緒にコンビニに寄るとは言わなかった
たぶん
お互い気不味かった
森谷さんがいつも飲んでるアイスコーヒーと
私のカフェオレを買って
コンビニを出たら
外で
樽崎くんが
スマホを見ながらタバコを吸ってた
さっき結ばれてた髪が
また下ろされてて
顔を半分隠してた
ひとりかな?
気付かれないように
通り過ぎようとしたら
樽崎くんが
私の方を見た
目が合って
鬱陶しそうに眉間にシワが寄った
「あの…この前は…
話し掛けて、すみませんでした
それから…あの…お礼言いたくて…
前に助けてもらって、ありがとうござ…」
「この前は、スミマセンでした
なんか、感じ悪かったみたいで…」
樽崎くんの声で
私の声がかき消された
丁寧なのに
敬語がよそよそしくて
いい気持ちはしなかった
ホントに
私のこと
覚えてないみたい
「あの、私のこと、覚えて…ませんか?
メガネ掛けてて…
髪は今より少し短くて…
それから…」
「オレが知ってるアナタは
澤村さんじゃなかった
たぶん、山咲さんだったけど…」
胸のネームプレートに
視線を感じた
覚えてて、くれてる?
「はい、山咲でした!」
高校の時に親が離婚して
山咲から澤村になった
「3年3組だった」
「あ、そーです!」
すごく
嬉しくなった
「フ…」
樽崎くん
今、笑った?
「あの、話し掛けて、迷惑でしたよね
私みたいなのと知り合いとか思われて…
だから、無視されても仕方な…」
「いや…逆
そっちがオレと知り合いとか思われたら
迷惑かな…って無視した」
「え…そんな事、ないです」
「また、敬語になってる
フ…」
「あ…」
10年前
やっと少し近くなった距離が
また遠くなってる
「アイスコーヒーぬるくなりますよ
誰か、待ってるんじゃないですか?」
樽崎くんの敬語は
きっと
わざとだ
寂しくなった
「はい…
あ、うん…」
「フ…」
また、笑った?
「あの、今度話し掛けてもいいですか?」
「敬語じゃなければいいですよ」
「じゃあ、また…」
「フ…」
タバコの煙を潜り抜けて
樽崎くんと分かれた



