この恋は、『悪』くない。


「沙和〜
お給料出たし、どっか寄って行かない?」



会社の同期と職場を出た



「んー、そぉだね…
あそこに新しいお店できたよね?
混んでるかな?」



「あー、フランス料理の店だっけ?
私も気になってた

あ…ごめん
私から誘ったのに
今、彼氏から連絡きた
沙和、また今度でもいいかな?」



「うん、ぜんぜんいいよ」



「じゃ、ごめんね!
お疲れ様〜」



「お疲れ様〜」



みんな

彼氏とか

結婚とか

妊娠とか

出産とか



最近

増えてきた

そのワード



あ…



隣のビル工事も

今終わったのかな?



「お疲れ様です」



髪が金髪の若い人が声を掛けてくれた



「お疲れ様です」



樽崎くん

いるかな?



「アレ?なんか、どこかでお会いしました?」



「え…」



そーだっけ?

でも、なんか、見たことあるかも…



「オマエ、古いよ!
そのナンパの仕方」



隣にいた男の人が言った



アレ?

でも

たしかに

どこかで…



金髪から覗くピアスと

作業着の首元から見えるタトゥーで

思い出した



「「「あ!!!」」」



私を含め3人の声が揃った



この前

酔っ払いに絡まれた時にいた人



「あー、なんだ
あの時のかわいいお姉さん」



「あの時は、ありがとうございました」



「だから、オレら、別になんもしてないって」

「そーそー…」

「けど、ここで会ったら、なんか運命感じね?
もしよかったら…」

「ブハハ…
オマエこの前のナンパリーマンと同じじゃん」

「たしかに!」



樽崎くんがすぐ横を通った



無言だった



また息が止まった



あの時は

酔っ払いに言ってくれたのに…



「あの!
この間は、ありがとうございました」



勇気を出して

胸の奥の息を

吐き出した



「…」



樽崎くんは足を止めたけど

無言だった



「あの、私…
あの、覚えてませんか?
あの…」



「…」



振り向いても

くれなかった



「おい、晴輝〜
無視すんなや
オマエに言ってんぞ」

「晴輝、この前の女の子」

「晴輝〜、困ってんぞ」

「なんか言えや」



樽崎くんが気怠そうに振り返った



前髪の奥から

こっちを見てた



「あの、この前じゃなくて…
えっと、中学の時、私…
あ、覚えてないですよね…」



覚えてないか…



この前のことだって

覚えてないかもしれないのに

10年前のことなんて



「え、ふたり、もしかして知り合い?」

「晴輝、感じ悪すぎ!」

「知ってんなら挨拶ぐらいしろよ!」



「…」



あ、迷惑だったよね



「知り合いっていうか…
あの、ぜんぜん、そんなんじゃ…」



言ったところで

覚えてたところで

迷惑しかない



一瞬目が合って

すぐにそらされた



またあの目で

あの時と変わらない目で

睨まれた



「早く車だして
オレ、急いでるから…」



「晴輝、オマエひどくね?」

「ごめんね
アイツ無愛想で…」

「ホント、特に女にね」

「どんだけ彼女に一途なん」



彼女

いるんだ



そっか…

いるよね



「ホント、ごめんね〜
なんでオレが代わりに謝らんとなん?」

「ホントに…
会社にクレームの電話
入れてくれてもいいっすよ」

「隣のビル工事してるヤツ無愛想って…」

「ハハハ…」



「あ、急いでるみたいなので行ってください
お疲れ様でした」



「「お疲れ様でした」」



ごめん

樽崎くん



謝らなきゃいけないのは

私だね



話し掛けたりして

ごめんね