「沙和ー
悪りー、ちょっと来てー」
ソファーにいたら
樽崎くんに呼ばれた
「ん?なに?」
「袖、まくって…
泡付きそう」
「あ、そーだね」
皿を洗ってくれてる
樽崎くんのシャツの袖をまくった
樽崎くんの腕に
私の指が触れる
こんなことでも
ドキドキする
「沙和、ありがと…」
「私、お皿拭くね!」
「え、いいの?
沙和、疲れてるだろ」
「大丈夫だよ」
近くにいたいと思うのに
緊張する
近くにいたいと思うのも
緊張するのも
こわいのも
好きだから
樽崎くんが
好きだからなんだよ
「沙和、顔かいて…かゆい」
「え?どこ?」
「右の目の下」
樽崎くんが少し屈んだ
もっと近くなる
「ここ?」
「うん、もぉちょっと下」
今度は
こわがったらダメ
「ここ?」
「うん、そこ…」
目が合った
「な、なんか、赤くなってるよ
虫刺されかな?」
きっとまた
私の頬も赤い
樽崎くん
気付いてるだろうな…
「沙和…」
「ん…?」
樽崎くんに触れた指先が
自分の手じゃないみたいだった
綺麗な顔
「ありがと、もぉ大丈夫」
見惚れてた
「うん…」
優しい声に
ドキドキする
水道から出る水の音で
私のドキドキがかき消されてますように…
「オレ、ケガ治ったら
いろいろしたいことあった」
「なに?」
「ん?内緒」
やっぱり
また女の子と遊びに行くのかな?
「フ…」
「ん?なに?」
「なんか、いいな…って思って…
こーやって、沙和と並んでるの」
「ん?」
「フ…結局手伝ってもらって、ごめん
ありがと
あとオレやるから
沙和、シャワーしてきなよ」
「うん…」
なんか、いいな…って
思ってくれたんだ
うん
樽崎くんの隣にいれるなんて
思ってなかったな…
きっとケガが治ったら
私の隣になんて
いてくれないよね
それまで
あと少しだけ
樽崎くんの隣にいていい?



