この恋は、『悪』くない。


「この前の事故
子供が飛び出してきて避けたら転んだんだ」



「そーだったんだ」



「よかった
死ななくて…」



「うん、ホントだね」



「あの子」



気にしないでください

オレなんかケガしても誰も心配しないんで…



「樽崎くんも死ななくてよかったよ」



「まぁ、ね…
アメ残して死ねないしな…」



「うん…」



私も思ってるよ

樽崎くんが無事でよかったって



「沙和、果物食べる?
持って行ってよ」



「樽崎くん、果物嫌いだった?」



「いや…
オレ、ひとりだし
こんなに食えない」



「私だって、ひとりだよ」



「よかったら
お父さんとお母さんにも持って行ってよ
オレ、包丁使えないし…」



「私、むくから一緒に食べよ!
林檎がいい?
梨もあるよ」



「んー、じゃあ梨…

オレ、ひとりじゃ何もできないな…」



樽崎くんらしくないな



「樽崎くん…
ひとりじゃないよ

アメもいるし…

私も
樽崎くんが帰ってこなくて
心配だったよ

バイク事故って聞いて
大丈夫かな?って
すごく心配だったよ

もぉ会えなかったら
ヤダな…って、ずっと思ってたよ」



10年ぶりに

偶然会った樽崎くん



あの時

会わなかったら

もぉ会わなかった人かもしれない





私はここにいないだろうし



「樽崎くん
また会えて、よかった」



「フ…沙和…
オマエ、かわいいな…」



樽崎くんの表情は髪で隠れてて

見えなかった



フワッ…て

優しく



急に抱きしめられて

息ができなくなった



樽崎くん?



「沙和…
いつも、ありがと」



樽崎くんのスウェットの隙間から

息をしたら

樽崎くんの匂いがした



タバコの匂いと

いつもの柔軟剤の匂い



樽崎くんの体温と

樽崎くんが息をする音



樽崎くん

生きててよかった



「家族じゃないけど
樽崎くんがいなくなったら
私は、ヤダよ」



少しでも長く

少しでも近く

樽崎くんの隣にいたいなんて

とても言えないけど…