樽崎くんの後ろを黙って歩いた
いつもの帰り道
私が時間がないって言ったからか
少し早足だった
小走りで樽崎くんに追いついた
それにしても
なに?
風を切る樽崎くんは
今日も爽やかな匂いがした
今日は
鬼ごっこしなかったのかな?
下駄箱の陰で
私をわざわざ待ち伏せしてた?
そこまでして
私に何か用事?
私
何かしたかな?
いつも通る公園に
樽崎くんは寄った
公園?
まさか
怖い人がいっぱいいて
私…
「樽崎くん、私、ホントに時間なくて…」
クシュン…
樽崎くんのくしゃみに
またビクッとした
「え、マジ…?」
「うん…ホントに…」
嘘をつくのも気が引けるけど
着いて来たことを後悔した
ニャーニャーニャー…
え…
猫?
足元を見たら
子猫がいた
「じゃー、簡潔に言うと
山咲んち、猫飼えない?」
「え…」
ニャーニャーニャー…
樽崎くんが
猫を抱き上げた
「昨日、ここ通ったら雨の中コイツがいて…
コンビニで牛乳買って
ダンボールもらって
とりあえずここに置いたけど…」
猫?
樽崎くんと猫
突拍子もないことで
突然すぎて
予想もしてなかったことで
周りを見渡しても
私が想像していた怖い人はいなかった
樽崎くん
この猫を私に見せたかったんだ
「うちはアパートだから飼えないと思う」
申し訳ないけど
率直に答えた
「そっか…」
樽崎くん
怒ったかな?
「ごめんなさい」
とりあえず
謝っておこう
「いや、山咲は悪くないよ
オレんち、母親が喘息だから飼えないんだ
じゃあ、他あたるからいいよ
ありがと、時間ないのに来てもらって…」
子猫を抱く樽崎くん
なんとなく
がっかりしてて
可愛そうになる
飼ってくれる人がいなかったら
樽崎くんも猫も
どーするんだろ?
「私も、抱っこしてもいい?」
「うん、いいけど、山咲時間大丈夫?」
「う、うん、大丈夫…」
ニャーニャーニャー…
小さくてフワフワしてて
ビー玉みたいな目が付いてた
「かわいい…」
「山咲、猫好きなの?」
「うん」
「アメオっていう名前なんだ、そいつ」
「アメオ…?なんで?」
「昨日、雨だったから…
オレ、晴輝
晴れだから、
アメオってオレの子分みたいでよくね?」
「んー…」
なかなかのネームセンス
「あ、なんか山咲今笑った?」
「え、笑って…ないです」
私
無意識に笑ってたかな?
「アメオ、オマエ笑われてるぞ」
樽崎くんが
私が抱いてるアメオを撫でた
ニャーニャーニャー…
「笑ってないよ
アメオ、かわいいよ」
ニャーニャーニャーニャー…
「コイツ、腹減ったのかな?
牛乳買ってこなきゃ…」
そんなことより
クシュン…ゲホゲホ…
「樽崎くん、風邪?」
さっきからずっと気になってた
「いや…どーだろ…」
樽崎くんは
自分のことより
猫の心配をしてた



