仕事帰りに
樽崎くんのご飯を作るのが
日課になった
「アメ!ただいま」
ニャー…
樽崎くんはソファーで寝てた
ん?
樽崎くん
本なんて読むんだ
読みながら寝てしまったのか
樽崎くんの手の近くに
1冊の本があった
何の本かな?
小説?
私が読んでた本
中学の時
樽崎くんに貸した本
でも
あの本は私の元に返ってきてる
なんでここに?
「んー…あ…沙和…
おかえり…
今日も、おつかれさま
ごめん、オレだけ寝てて…」
「おはよう
この本て…」
「あー…覚えてる?
沙和が中学の時、貸してくれたじゃん
オレ、最後まで読めなかったんだ
また読みたいな…って…
この前、買ったんだ」
「覚えてるよ」
『ありがとう ごめんね』
しおりの文字も覚えてる
あの時
私は樽崎くんを好きになりそうだった
んーん…
好きだった
樽崎くんを知るのがこわくて
樽崎くんが貸してくれたCDは
聴かないまま返した
「あの時のCD
樽崎くんが貸してくれたCD
私、聴いてないんだ
一度も聴かないで返した
ごめんね…」
「別にいいよ
興味ないの聴いたって時間の無駄だし…」
たぶん
そーじゃない
「興味あったけど
聴くの、こわかった」
「フ…なんだ、ソレ
そんなオレ、こわかった?
聴いてる音楽もこわそうだった?
聴いたらオレみたいに不良になるって?
ハハハ…」
「そおじゃなくて…
なんか…ごめん…聴けなかった」
「ボーカル薬やってそうでヤバいけど
いいものはいんだよね
人は見た目じゃない
けど、オレももぉ聴いてないや
…
アレから聴いてないな
聴けなくなった
…
音楽ってさ
いい歌でも聴いてた時のこと思い出して
辛くなる時あんじゃん
だから、聴いてない」
「うん、なんかわかるよ
本もそうだもん
読んでた頃のこと、思い出すよ」
樽崎くんが
あのCDを貸してくれた時
樽崎くんのお母さんが入院した頃
その後すぐ
お母さん亡くなったんだもんね
聴いたら
思い出すよね
私もあの本は捨てれなかったけど
あれからなかなか読めなかった
好きな本は何度も読むのに
樽崎くんがいなくなったこと
思い出すから
「今日の夕飯なに?
オレ、手伝うわ」
「いいよ
座ってて!
すぐ作るから、待ってて…
本の続き読んでてよ」
樽崎くんは
私が貸した本を
なんで今更読もうと思ったのかな?



