「フー…気持ちよかった」
「アメ、ご飯いっぱい食べたよ」
「ありがと」
「シャワー大丈夫だった?」
「んー…髪切っとけばよかった
シャンプー面倒くせー
女の人って、毎日面倒くさくねーの?」
樽崎くんは
また少し伸びた髪を
鬱陶しそうにかき上げた
「面倒くさいとか思ったことはないけど…」
「沙和の髪って、綺麗だよね
昔からそぉ思ってた」
昔から?
樽崎くんの視線が
照れくさかった
「そ、そぉかな…?
樽崎くん、髪伸ばしてるの?」
樽崎くんは
髪が長くても短くても
綺麗な顔をしてる
伸びた髪も嫌味なく似合ってるし
中学の時は短かった
「伸ばしてるわけじゃなくて、伸びた
オレ、なんかないと髪切らないから…
…
先輩の結婚式とか…
あ、罰ゲームで坊主もしたし…
…
この前切ったのは、たしか…
父親の葬式だったかな」
え…
「お父さん、亡くなったの?」
「あぁ…だから今オレひとりなんだ
言わなかったっけ?
兄貴は結婚してこっちにいないし
夏に帰ってきたから
次は正月かな…」
そんなに
サラッと言うんだ
なんて声を掛けていいか
わからなかった
「父親死んでから、アメとふたり
あの時、ホントにアメ拾ってよかった」
「お父さん、いつ亡くなったの?」
「1年経ったよ」
まだ1年
ついこの間
「寂しく、ないの?」
「うん…
沙和だって、独り暮らしじゃん
それと同じだろ」
「そーかな…」
私もアパートで独り暮らしだけど
お父さんとお母さんは離婚してるけど
会いたければいるし
そんな会わないけど
たまに電話くらいはする
樽崎くんは
もぉお父さんの声もお母さんの声も
聞けないんだ
「フ…沙和、寂しいのか?
オレはアメいるから…
今日はアメ抱いて寝ようかな
…
沙和、抱いてくれる男いねーの?
なら、オレがアパート行こうか?
フ…いつでも呼んでよ」
樽崎くんが笑った
今、そんな冗談言わなくていいよ
抱いてなんかくれないクセに…
「樽崎くん、無理に笑わなくていいよ
そんな冗談なんて…」
「別に冗談てわけじゃ…
あ、沙和怒った?」
「怒ってないよ
何か手伝えることがあったら、言ってね」
怒ってないけど
ここにいるのが私じゃない女の人だったら
抱けるのにね…って虚しくなった
「同情されてる?オレ」
ケガをしたこと
ご両親が亡くなってること
別にそれに対しての同情とかじゃなくて
「同情とかじゃないけど…
大変かな…って…
私にできることあったら言ってね
…
でも、樽崎くんモテるから
いくらでもお世話してくれる人なんか
いるよね
別に私じゃなくても…」
私にできることはないかな?って
思ったんだよ
「んー…いたかな…
そんな人、いねーよ
…
フ…
適当に遊んでたからかな?
こんな時、誰も来てくれないって笑える」
「それも、笑えないよ」
樽崎くんが適当に遊んでた女の人たちも
樽崎くんが大切にしてるアメも
羨ましくて
私は笑えなかった
「私、来てもいいかな?」
私は求められてないかもしれないけど
樽崎くんの為になりたかった
「来てくれんの?」
「うん、樽崎くんがよかったら…」
「お願いします」
同情とかじゃなくて
これは
きっと…



