この恋は、『悪』くない。


「澤村さん、コーヒー入れてよ」



森谷さんだった



「はい」



「今日は、すぐ入れてくれるんだね」



「はい
いつもお待たせしてるので…」



「なんかあった?」



「なにも…」



「先週まで、やけに艶々してたから
彼氏できたかな…って思ったけど…」



よく見てる



「何もないです
いつもの私です」



こっちがいつもの私



確かに先週は

浮かれてたかも





樽崎くんが好きだって

気持ちに気付いて



毎日樽崎くんの家に行って



相手にされるわけなんてないのに

勘違い女



同じ世界にいないんだって

樽崎くんは



自分に言い聞かせる



好きだって気持ちも

勘違いだったのかも…



「澤村さんて、わかりやすいよね
すぐ顔に出る」



コーヒーを飲みながら

森谷さんが言った



「そーですか?」



それは

森谷さんが私をよく見てるから



「いつも
言いたいこと言わない」



「…そーですか?
ん…でも、そーかもしれません
子供の頃から言えなかったかもしれません」



いつも親の顔色伺ってたかも…


離婚する時も

ホントは離婚してほしくなかったけど

言えなかった



「言ってもらえる存在になりたいな…
まぁ、無理かな…」



森谷さんが独り言みたいに言った



森谷さんなら

私を幸せにしてくれるのかな?



沙和は、あーゆー人がいいかな…って

幸せにしてくれそうだし…

沙和に似合ってる



「たぶん…
ホントのこと言ったら
そしたら…
森谷さん
私のこと嫌いになると思います
私、わがままなんで…」



「ハハハ…
またフラれた?オレ」



私のこと幸せにしてくれますか?

そう言ったら森谷さんは

受け止めてくれると思う



でも

言えなかった



やっぱり

樽崎くんが好きだな…



この気持ちは

勘違いじゃない



「澤村さんのタイプってどんな?」



コーヒーを飲みながら

森谷さんが聞いてきた



「タイプ、ですか?」



「全く想像つかないから…
今好きな人はどんな人?
だいたい
目があって、鼻があって、口があって…
そのへんはオレと変わらないじゃん」



「あー…そーですね…」



ていうか

好きな人がいることもバレてる



森谷さんて

スゴい



「オレと違うところって何?」



森谷さんと違うところ



なんだろう?



タイプはぜんぜん違うけど

一般的にふたりとも

女性にモテるルックス



森谷さんはいつも優しい

樽崎くんもあー見えて優しい



私は

樽崎くんのどこに惹かれてるんだろう



きっと…



「森谷さんより先に
私を好きって言ってくれたところです」



「え、オレ出遅れた?
それってどれくらい前?
オレがもぉ少し早くアピールしとけば
可能性あったってこと?」



「10年前です」



「オレ出会ってないじゃん
ハハ…遠回しに絶対無理って言われてる?」



隣の工事で樽崎くんに再会してなかったら



森谷さんと付き合ってたかな?



でも

たぶん



あの時から好きだったのかもしれない



山咲のこと、好きかも…



あの時から

樽崎くんにまた会えるのを

待ってた気がする