この恋は、『悪』くない。


真っ直ぐ前を見て

隣にいる樽崎くんを

なるべく視界に入れないようにした



樽崎くんの匂いと一緒に歩いた



「みどりちゃんの犬って結局死んじゃうの?」



樽崎くんの匂いに

樽崎くんの声が混じった



「え?」



樽崎くんの質問に

樽崎くんの方を見てしまった



樽崎くんは真っ直ぐ見てた

樽崎くんの横顔が見えた



「あと、しゅんたの探してる物って何?」



「え?」



私が読んでた小説の内容だった



「オレ、読むの遅いから
先が気になるけど
なかなか進まなくて…」



「え、読んだ、の?」



「山咲やっとこっち向いた」



樽崎くんも私を見た



眩しい



西日のせいかな?



「なんで、読んだの?」



「山咲、友達と楽しそうに話してるから
そんなに面白い本なのかな?って

気になったし…

山咲がどんな世界見てるか知りたくなった

けど、あの本、分厚いし、字が細かくて
まだ途中までしか読んでない

オレ、マンガもあんま読まないから…」



樽崎くんから見て

私って

楽しそうに見えるのかな?



私の見てる世界なんて

知らなくても



樽崎くんはいつも

友達に囲まれて楽しそうに笑ってる



私の世界なんて

樽崎くんのいるところに比べたら

全然…



きっと

知っても

楽しくない



「今日も帰ったら続き読む」



樽崎くんをそっと見たら

優しい顔をしてた



また

ドキドキして

すぐに目をそらした