『ブォーブォ―』
 
 船の汽笛の音が聞こえる。ちょうど黄昏時、1人の少年とその家族がここ、江戸崎を発とうとしていた。
 
 江戸崎は人口2千人ほどの自然豊かな小さな離れ小島で、観光客にもとても人気がある。人々は漁や農業でほとんどが自給自足の生活を送っている。
 
 今日は週に1度定期船がくる日。ここで今日、1組の家族が東京へ旅立つのだ。

「真司。もうそろそろいかないと」

「待って、もう少し…」

「真司…でも…」母の声が汽笛の音に交じって聞こえる。
 
「真司―!」
 
「あ!愁平!」真司は島一番の親友、愁平を待っていたのだった。

「真司。どうして黙って行こうとするんだよ!俺たち親友だろ?」

「…でも仕方なかったんだ。もし会ったら寂しくなっちゃうから…」

「そんな泣きそうな顔で言うことじゃないぜ?」

「お互い様だ」真司は涙で赤くなった目頭を押さえて愁平に微笑んだ。

『ブォーブォー』

船の汽笛の音が島の港で大きく鳴り響く。

「もうそろそろ出発しますよー」船長の声が2人の小さな背中にこだまする。

「俺もう行かないと…」

「真司!」

「愁平…俺、絶対戻ってくるから。待っててくれよ…」真司は少し寂しそうな顔で別れを告げた。

「ああ!三年でも!十年でも何年でも待っててやる!俺たちの友情の名のもとに」愁平は力強く言った。

「ありがとう」真司は、けなげな笑顔で最後の言葉を残した。

「真司!」真司は別れを告げると何も言わず船へ乗り込んだ。

ただ、こちらに優しく手を振り返している。

『ブォーブォー』