いまだに、叫びたくなるほどの羞恥を鮮明に思い出すのだ。
 結局あの後少ししてから意識がはっきりとし出した私に、「この後どうする?俺はもう帰るけど」といけしゃあしゃあと言ってのけた竜生くんに腹が立った私は、一人カラオケルームへと戻った。
 その日の夜の竜生くんとの電話で聞いたことだが、佳穂とさくらちゃんの予想通り、清田さんが途中で入室してきたらしかった。自分に関連することで場の空気が悪くなったことと、合流してからの私の態度を問い詰めたい気持ちとで、竜生くんは早々に帰ることを決めたと言っていた。




 あのカラオケルームハレンチ大事件からほぼ1ヶ月。5日間にも渡る期末考査を終え、2学期のイベントは残すところ球技大会のみとなっていた。
 バレー、バスケ、卓球から出場種目を選ぶのだが、所属している部活動と同種目を選択してはいけない決まりだ。
 小学生のときに地区で作られたバレーチームに参加していたことが、私の唯一の運動経験である。私は迷いなくバレーを選択した。というか、それ以外に選択肢はなかった。
 竜生くんもバレーと卓球の2択からバレーを選択していた。男女別で行う形態の体育授業のために、普段はなかなか運動をしている姿を見ることはできない。なので同じ種目を選択したこの球技大会で、竜生くんの運動姿を思う存分堪能しようという心づもりだ。



「やばいわ、あれはやばい」

 私が亜美ちゃんと今日この後行われる球技大会について話していると、登校してきた佳穂が私たちを見つけるなりそう騒いだ。

「どうしたのよ」

 亜美ちゃんはさほど興味無さそうに首を傾ける。佳穂の「やばい」がそこまでやばかったことなど、今まで一度もないのだ。

「美琴の幼馴染だよ!」

 興奮気味に肩を叩かれ「痛い痛い」と訴えながら、礼人と清田さんのことか、と「やばい」の内容に合点がいった。その2人は、高校内で今一番話題になっているカップル、と言えるだろう。

「めっちゃ絡みついて濃いキスしてた。廊下でだよ?まじでどうなっとんだ」

 ほんと佳穂の、まじでどうなっとんだ、に全面的に同意する。
 礼人と清田さんは文化祭から1週間ほどして付き合い始めた。本人から直接聞いたわけではないのに付き合い始めた大体の時期がわかるのは、彼らの校内でのイチャイチャ目撃情報が出回り出したからである。
 教室で椅子に座る礼人の膝の上に清田さんが座ってた、なんてのはまだまだ可愛いものだ。礼人が清田さんの肩を抱き、顔をくっつけてイチャイチャ。駐輪場でのキス。そして廊下でのキス。キスキスキス!!なんなら今にもおっぱじめてしまいそうな雰囲気まで出してるんだから、正直ほとんどの生徒は引いてると思う。
 最初は「ショック……」と言っていた両名のことを好いていた人たちも、今では「なんであの人のこと好きだったんだろ……」とまで言っているみたいだ。自分自身にネガティブキャンペーンしてるのかな?と思わないでもない。
 しかし私が礼人にどうこう言うことはもうできない。2人が幸せならそれでいいじゃん?と思うしかないのだ。
 そもそも文化祭のときに私も竜生くんとゴニョゴニョ……まぁ、私には礼人たちのことをどうこう言える資格はなかった。

「頭お花畑なんでしょ?どうせすぐ別れるんだしほっときなよ」

 わーお、辛辣ぅ!亜美ちゃんはこの話はもうおしまい、と言うように「更衣室行こう」とサブバッグを持って席を立った。