どこに呼び出せばいいのかわからなくて、結局「私の部屋に来てほしい」とお願いしたのだけれど、まずかったかなぁ….…と礼人の距離の近さに早速後悔していた。

「ちょっと……近いんだけど」

 離れてほしい意思表示に礼人の胸元を押した。しかし礼人は私の意思を汲んでくれずにさらに距離を詰めてくる。これはわかっててあえてやってるな、と深いため息をついた。
 肩に手を回されて「話ってなぁに?」と笑いかけられれば、ぞくりと背筋が寒くなる。今までの礼人ってなんだったんだろう。異性ということを微塵も感じさせないカラッとした接し方は、礼人が意識してそうしていたんだと、今思い知った。
 顎を上げて見下ろすような視線をした礼人に、彼にとって私が紛れもなく女であるということをまざまざと見せつけられた心地だ。
 悲しい、と思うのは礼人に失礼なのだろうか。だけど、私は悲しい。性別を超えた友情だと信じて疑わなかった。だけどそれは一方通行の想いだった。私たちの友情は礼人の犠牲の上に成り立っていたの?

「待って、ほんと離れて……!」
「俺が怖い?」

 途端に切なげな目を向けてくるものだから、言葉に詰まる。私は礼人を傷つけたいわけじゃないのだ。

「いつからなの?いつから……その、好きだったの……?」
「……忘れた」

 そして次はこの上なく優しい眼差しを向けて、「気づいた時には好きだったよ、ずーっと昔っから」だなんて。だけど、その気持ちには応えられない。だって私は、竜生くんが好きなのだ。

「わ、たし……礼人のことはそういう対象でみたことがない。ずっと、友達だと思ってた」

 ごめん、と呟いた言葉はあまりにも頼りなく、空気に溶けて消えた。怖くて怖くて、礼人の顔が見られない。

「俺、どこで間違った?どこからやり直せば俺のこと好きになってくれる?」

 悲痛な叫びなのに、礼人の声はどこまでも優しい。俯いたままの私の髪を梳いた礼人の手から逃げるように後ずさる。反射的に顔を見れば、やっぱり礼人は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 傷つけたくない。だって大切な人なのだ。どこで間違ったかなんて、そんなの私が聞きたい。どこからやり直せば、礼人は私をただの幼馴染だと思い続けてくれるんだろう。

「例えばやり直せて、私が礼人を好きになって付き合う、そんな人生があったとして。私はそこでも竜生くんと出会って、絶対に竜生くんを好きになる」

 私が竜生くんを好きになることからは逃げられない。運命なんてそんな優しいもんじゃない。それはもっともっと残酷な……そう、宿命だ。


「ふっ。きっつー。めっちゃ言うじゃん……」

 私の言葉を聞いて、今度は礼人が俯いた。傷つけた。その事実に咄嗟に「ごめん」と口走りそうになる。

「謝んなよ!謝らないで……」

 私の謝罪を礼人の言葉が被さるように止めた。

「……うん。礼人、ありがと「ありがとうもいらない。もう美琴からはなにももらわない」

 それは最後の意地だと、礼人は眩しい笑顔で告げる。それは幼い頃から変わらないもだった。

 ふぅ、ともう一度ため息を吐き、礼人の身体が私から離れる。冷やりとした空気を感じ、私は終わりを悟った。
 「じゃあ、また学校でなー」といつも通りの緩い声で礼人は部屋を後にする。
 私と礼人がずっと友達でいられる、何か良い方法はなかったのかな……。礼人のいなくなった部屋で、私は未練がましくそんなことを考えていた。