中間考査が終わると同時に、文化祭の準備が本格化する。ということは、文化委員の私も本格的に忙しくなる、ということだ。
 と言っても、実際取り仕切るのは前期から発足している2年生中心の文化祭実行委員会と生徒会役員、文化委員長なので、私たち一年生はオマケみたいなものだった。

「1時間ローテなんですねー」

 実行委員会から割り当てられた文化祭当日の仕事内容を確認していると、礼人が口を挟んだ。

「そうそう、なのでクラスの出し物のシフトはこっちと被らないように組んでもらってね」

 2年生の先輩が注意点を丁寧に説明してくれた。ふむふむ、なるほど。

「あと、警備で巡回する相手は違うクラスの子で、男女のペアで組んでます」

 なるほどー。クラスのシフト対策と防犯対策まで練り込まれた完璧なペア決めですね。
 だから私はこいつとペアなのか、と配られた用紙をじっくり読んでいる礼人をチラリと見た。
 
 あの体育祭で感じた礼人からの好意は私の勘違いだったようだ。結局礼人は前までと何ら変わりなく、友達として私に接している。
 一時期は、あんな目で見るなんてまじで紛らわしいことするな!!、と理不尽な怒りを覚えたりもした。いや、礼人はなにも悪くない。完全に私の自意識過剰の空回りだったのだから。ほんとに恥ずかしい。穴があったら入りたい。



 「不明点があればいつでも聞いてきてね」というありがたいお言葉と共に会議は終了となり、私は礼人と並んで自分たちの教室へと歩いていた。

「美琴のクラスって出し物なにすんだっけぇ?」
「お化け屋敷!礼人のクラスは縁日でしょ?」
「そーそー。準備が楽そうじゃん、てことでそれになったー」

 なんだそれ。まぁ、みんながみんな文化祭を楽しみにしてるわけじゃないし、たしかにそれも大事か。
 私たちの高校は2年生が飲食店、1年生はそれ以外と決まっているのだ。ちなみに受験勉強で忙しい3年生は自由参加だ。3年生の有志が集まり実行委員会の仕事も手伝ってくれるらしい。

「てか、今年もやるらしいね、"運命の相手"」

 礼人はニヤリと笑って私の顔を覗き込んだ。私は特に大した反応をすることもなく「毎年やってるんだからねぇ」と返す。

 うちの高校には、伝統なんて大層なものではないだろうが、割と昔から続く生徒会主催の企画があった。それが先程礼人が口にした『運命の相手』というやつだ。
 それは文化祭当日、生徒一人ひとりにーー3年生には事前に参加意思を聞くらしいーー番号が書かれた紙が担任から配られる。そして自分の番号と全く同じ番号が書かれた紙を持つ生徒が一人だけいるので、その生徒を探し当てて生徒会のテントに2人で行けば景品がもらえる、というものだった。
 まぁ、なんてことはないお楽しみ企画に『運命の相手』なんて大それた名前をつけただけで、高校生の私たちにとっては一大イベントになってしまうのだ。
 番号が書かれた紙は、首から下げられるようにネックレス状になっていた。恋人がいる生徒や参加したくない生徒は、制服の胸ポケットにそれを隠すらしかった。

 これは実行委員の先輩に聞いた話なので、確実なものだ。

「洗井くんの番号人気だろうねぇ」

 どうやら、好きな人の番号を確認して、それと同じ番号の生徒を探し出して自分の番号札と交換してもらう、というルール違反も毎年横行しているようだった。しかしそんな些細なこと、いちいち生徒会も実行委員会も取り締まらない。
 運命の相手、とはよく言ったものだなぁ、と少し冷ややかな気分になる。

「礼人の番号も人気なんじゃない?最近森脇くんブームがきてるって聞いたよ」

 礼人の挑発には乗らない、と、私は負けずにニヤリと笑い返した。

「そんなんしょうもないよ」
「しょうもないって……礼人のこと好きな子の気持ちをそんな風に吐き捨てることないでしょ」

 あまりにもデリカシーのない辛辣な言葉に思わず注意した。礼人はそんな私をじっ、と見つめる。
 まただ、またこの目だ。私を非難するような、それでいて縋りつくような、だけど何も教えてくれない瞳。いったい何を考えているのだろう。
 ずっと知っていた。わかっていると思っていた礼人のことがよくわからない。

「たしかにー。すっごいひどい言葉だったね。反省しまーす」

 次の瞬間にはもういつもの礼人だ。間延びした声が、本当に反省してるのか?と不安にさせた。