私がそそくさと1年7組に割り当てられた場所に向かうと、亜美ちゃんが「大丈夫!?」と駆け寄って来てくれた。
 「だいじょーぶ!思ってたより怪我が小さくて、もう血も止まったよ!」と笑顔で答えていると、佳穂とさくらちゃんが私用の衣装を持って来てくれた。新撰組の色に合わせて上は黒のTシャツ、下は青色のビニール紐を束ねた物を裂いて作ったスカートもどきだ。
 竜生くんを含むメインメンバーは、新撰組の物に似せて作られた羽織を着ている。中は剣道部に道着を借りたらしい。なんでも卒業した先輩たちが寄付してくれた胴着や袴があるらしく、7組の剣道部員を通してそう話がついたみたいだった。
 
 私が竜生くんの方を見ていると、竜生くんも私に気づいたらしくこちらに来てくれた。その姿を見て、やっぱり、めちゃくちゃかっこいいじゃんかよ、と心の中でガッツポーズを決める。

「保健室一緒に行けなくてごめんな。大丈夫だった?」

 竜生くんが心配してくれているのに……ほんとにごめん、私の怪我とかどうでもいいんだわ。袴似合いすぎでは?もう神々しさまで感じる……。

「おーい、聞いてる?」

 なんの反応もない私を訝しみながら、竜生くんはもう一度私に話しかける。

「ごめん、怪我は大したことなかった!それより、ほんと似合ってる……かっこいい!」

 怪我のことはさらりと、その後のことは熱量高めに伝えると、「ありがと、嬉しい」だなんて返してくれるんだから、ほんとごちそうさまです。

「そういえばこの道着、森脇くんに借りたんだ」

 唐突に出た名前にはてなマークが浮かぶ。なぜ礼人?「そうなんだ」としか返せずにいると、竜生くんが話を続けた。

「寄付されてた道着の中に俺のサイズがなくてさ。で、体格が近い森脇くんに借りることになったんだよ」

 なるほど。その説明を聞いて納得した。礼人の身長は竜生くんより少し高いが、まぁほぼ同じだ。どちらも標準体型なのでサイズはピッタリと合うだろう。

「こんなとこで2人が繋がってるの、なんか面白いね」
「そ?森脇くんとは仲良くなれそうだよ」
「そうなら私も嬉しい」

 大切な彼氏が私の大切な人と繋がっていく。それってなんだか、私ごと大切にされているようで、とっても幸せ。


 応援合戦はなんと1年生8クラス中、一位を取ることができた。それもこれもみんなで協力してきた結果だと思うが、個人的には竜生くんの功績が大きいと思うのは贔屓目だろうか。
 それが終わると超特急で衣装を脱いで、一年生全員が参加する玉入れだ。クラスごとに籠を持つ人と投げ入れる人を決めるのだが、籠を持つ係はもちろん屈強な男子たちなので、私は玉を投げ入れる方だ。
 これが思ったより入らない。玉は届くのだけど、あの小さい籠に入れるのが難しい。拾っては投げ、拾っては投げを繰り返していると、ぽこりと頭に玉が何度か当たった。最初はたまたまか?と思ったのだけど、こう何回も続くとわざとじゃないか?と思う。
 まじで誰だよ、と玉が飛んできた方を見れば、はいはい、あなたたちね、と合点がいく姿が目に入った。竜生くんにアプローチしてた清田さんと仲の良い子たちだ。こんな真剣勝負の時に私情を挟むなんてダサすぎる。私はふい、と前に向き直り、また拾っては投げてを繰り返した。


 玉入れが終わったことにより、私の体育祭出場競技は全て滞りなく終了した。がんばったー!と感慨に耽っていると、隣に腰を下ろした亜美ちゃんが「さっき大丈夫だった?」と声をかけてきた。
 大丈夫だったとは?と、心当たりを探していると「白岡さんたちだよ」とこそりと告げられる。あぁ、玉入れの玉を頭に投げられていたことか!

「へーきへーき。ムカついたけど」
「止められなくてごめんね……」

 なにも亜美ちゃんが謝ることなどないのだ。あんな目立つ場所で、しかも競技中に注意をするなんて無茶な話である。
 「や、亜美ちゃんが謝らないでよ」悪いのはそんな場面で私に嫌がらせをしてきたあの子たちだ。新学期が始まってから一度もされなかった嫌がらせを、まさかあそこでしてくるとは夢にも思わなかった。もし何か言われても「わざとじゃないよー」と言えるシチュエーションを待っていたのだろうか?
 それなら恐ろしく性格悪いな?と思っていると、「服部、ちょっと……」と聞き慣れた声が亜美ちゃんを呼んだ。

「スウェーデンリレーのバトンパスの練習しよー、って」

 なにを隠そう、亜美ちゃんもリレーの第二走者に選ばれていた。どうやらリレーメンバーで最後のバトンパスの練習をするみたいだった。
 競技中は参加している生徒を応援しなくちゃいけないので、本来なら練習はダメなんだけど。体育祭の大取りであるスウェーデンリレーに限っては、少しくらいなら、と先生たちも黙認していた。

「いってらっしゃい!頑張ってね」

 と竜生くんと亜美ちゃんに向かってエールを送る。2人で歩いて行く後ろ姿を見て、つきりと胸が痛んだことは内緒だ。