体育祭までは部活動もなくなり、デコや衣装の製作、スウェーデンリレーや二人三脚に出る生徒は、バトンパスなどの出場種目に必要な練習を放課後に行えるようになっていた。
私は玉入れと応援合戦に参加するだけだが、竜生くんはスウェーデンリレー、100メートル走、玉入れ、応援合戦、クラブ対抗リレーと出場種目が目白押しである。当日は応援が忙しいぞぉ、と私は自分が出ることよりも竜生くんを応援することに力を入れている。
なので放課後は、竜生くんは運動場で練習、私は教室でデコの製作に尽力していた。
私たちのクラスの応援合戦のテーマは会議の結果"新撰組"に決定しており、そのテーマに沿ったデコ、衣装、ダンスを考え、製作しなければいけない。
「ねぇ、洗井くんどこにいる?」
「リレーの練習じゃない?」
「衣装作るから採寸したいんだけどぉ!」
浅葱色の生地を手にした衣装係の子の声が教室に響く。
応援合戦で一番のメインポジションである下段真ん中で踊る人は、満場一致で竜生くんに決定していた。限りある財源の中では致し方ないことだが、階段状になったステージの上段かつ後方で踊る子とは衣装の派手さとこだわりが違うのだ。衣装係の子の「呼んできて!」という声にも自然と熱がこもっていた。
浅葱色のだんだら模様の羽織を着た竜生くんか。それを目にする前からわかる。絶対にかっこいい……!
私は木板に鮮やかな水色を塗りながら、自分の頭の中の竜生くんに悶えた。側から見ればわけのわからない光景である。
「ごめん、お待たせ」と少し息を切らしながら教室に駆け込んで来た竜生くんを目で追う。瞬間視線が交わり、柔らかく微笑まれる。息の仕方を忘れてしまったのかと思うほどに胸が苦しくなって、思わず視線を逸らしてしまった。付き合って2ヶ月が経とうというのに、まだ竜生くんの笑顔の破壊力に慣れないでいた。
衣装係の子が採寸するためにメジャーを持って、竜生くんの側に立つのが視界の端で見える。
「身長いくつだっけ?」
「179だったかな。180ないぐらい」
ほへぇ。高いなぁとは思ってたけど、そんなにあったんだ。その後も「腕も長いねぇ」「ウエストほそっ!」という言葉に聞き耳を立てながら、一心不乱に水色を塗った。
竜生くんの体格の何が好きかって聞かれると、逆三角形の骨格だと自信を持って言い切れる。しっかりとした肩幅から骨盤にかけてなだからに細くなっていく体型が、たまらなく魅力的なのである!と力説させてほしい。
「終わったー?」と同じデコ係の子に声をかけられ、肩が跳ねるほど驚いてしまった。「ごめん、集中してるところに急に声かけちゃって」と謝られて、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。集中はしていたのだけど、集中していた部位は手元というより耳の方だった。
「いやいや、全然!もう終わるよ」
「じゃあ、明石さんが終わったらペンキ返してくるね」
ペンキは美術室から使う色だけを借りることになっていた。水色、白、黒、赤を借りていたのでさすがにこれを一人で返すのは大変では?と思う。
「一緒に返しに行くよ!一人じゃ大変じゃん!」
「あ、私一人で行くんじゃなくて……その大垣くんと……」
ははぁん、そういうことか。大垣くんとは現在衣装の方を手伝っている元々デコ係の男の子で、今話している水川さんの彼氏なのだ。
そりゃ彼氏と2人きりになれる機会があるなら絶対ものにしたいだろう。少し離れた美術室まで2人で歩いて行くのなんて、最高のシチュエーションなわけだ。
なるほどー、としたり顔を見せれば水川さんが恥ずかしそうに俯いた。……照れてる女子ってかわいいな。
「じゃあ、お願いしようかな!」
最後の部分を塗り終えたのでそう言えば、「ありがと」と水川さん。ありがとう、はペンキ返却をしてもらう私の台詞なんだけれども。
「ね、ね。そういえば、明石さんって洗井くんと付き合ってるんだよね?」
少し距離を詰めた水川さんが、こそりと耳打ちをしてきた。衣装係の子と話し込んでいる竜生くんの方をちらりと確認した水川さんにつられて、私もそちらに視線を送る。
「うん、付き合ってるよ」
「やっぱり!そうだよね」
「正直、噂になってるでしょ……?」
「んー、噂にもなってるけど、洗井くんのこと見てたらわかるよ」
水川さんは何かを思い出したかのようにくすりと笑った。
「洗井くん、明石さんのことすごい気にしてる。さっきもペンキ塗ってる明石さんのこと、チラチラチラチラ見てたよぉ」
なにそれ。俯いたまま聞き耳を立ててたからわからなかった!
水川さんに指摘された直後、バチンと竜生くんと目が合って、恥ずかしさに溶けてしまいそうだ。顔に熱が集まっていく。
あわあわと焦る私を横目に、水川さんが「洗井くんって優しいんだけど、なんかもっとクールでわかりにくい人なんだと思ってたんだ」とさらに追い詰める。ちょ、ちょっと、ほんと恥ずかしい!
「だけど、明石さんのことが好きーって全身から出てるね」
はい、死亡です。恥ずかしい。恥ずかしいんだけど、嬉しい。側から見ればそんな風に見えているのだと教えてもらって、私はとても嬉しい。
だって、始まりがあれだもの。私ばっかり好きだと今の今まで思っていたのだ。
もちろん竜生くんから直接「好きだ」と言われたことはないので、期待と油断は禁物だ。わかってる。わかってるけれど。
今は素直に喜んでいたい。竜生くん、気づいてる?側から見れば、竜生くんの全身から私への好きが溢れているんだって。
私が大好きなその逆三角形の上半身や骨感を感じるすらりとした長い足から、好きが溢れてるんだって。……これはあまりにも変態っぽいか。反省。
ジーッと見つめている私を不思議に思ったのだろう、竜生くんが、ん?、と言っていそうな表情を私に向けた。
眉が上がり突き出た唇がかわいい。えぇー、このお顔からも私への愛が溢れているんでしょー?
……なんだかどんどん調子に乗ってきてしまうので、この話題はこの辺で終わりにしよう。
でも本当にそうなら嬉しい。本当にそうでありますように、とどうしても願ってしまう。
私は玉入れと応援合戦に参加するだけだが、竜生くんはスウェーデンリレー、100メートル走、玉入れ、応援合戦、クラブ対抗リレーと出場種目が目白押しである。当日は応援が忙しいぞぉ、と私は自分が出ることよりも竜生くんを応援することに力を入れている。
なので放課後は、竜生くんは運動場で練習、私は教室でデコの製作に尽力していた。
私たちのクラスの応援合戦のテーマは会議の結果"新撰組"に決定しており、そのテーマに沿ったデコ、衣装、ダンスを考え、製作しなければいけない。
「ねぇ、洗井くんどこにいる?」
「リレーの練習じゃない?」
「衣装作るから採寸したいんだけどぉ!」
浅葱色の生地を手にした衣装係の子の声が教室に響く。
応援合戦で一番のメインポジションである下段真ん中で踊る人は、満場一致で竜生くんに決定していた。限りある財源の中では致し方ないことだが、階段状になったステージの上段かつ後方で踊る子とは衣装の派手さとこだわりが違うのだ。衣装係の子の「呼んできて!」という声にも自然と熱がこもっていた。
浅葱色のだんだら模様の羽織を着た竜生くんか。それを目にする前からわかる。絶対にかっこいい……!
私は木板に鮮やかな水色を塗りながら、自分の頭の中の竜生くんに悶えた。側から見ればわけのわからない光景である。
「ごめん、お待たせ」と少し息を切らしながら教室に駆け込んで来た竜生くんを目で追う。瞬間視線が交わり、柔らかく微笑まれる。息の仕方を忘れてしまったのかと思うほどに胸が苦しくなって、思わず視線を逸らしてしまった。付き合って2ヶ月が経とうというのに、まだ竜生くんの笑顔の破壊力に慣れないでいた。
衣装係の子が採寸するためにメジャーを持って、竜生くんの側に立つのが視界の端で見える。
「身長いくつだっけ?」
「179だったかな。180ないぐらい」
ほへぇ。高いなぁとは思ってたけど、そんなにあったんだ。その後も「腕も長いねぇ」「ウエストほそっ!」という言葉に聞き耳を立てながら、一心不乱に水色を塗った。
竜生くんの体格の何が好きかって聞かれると、逆三角形の骨格だと自信を持って言い切れる。しっかりとした肩幅から骨盤にかけてなだからに細くなっていく体型が、たまらなく魅力的なのである!と力説させてほしい。
「終わったー?」と同じデコ係の子に声をかけられ、肩が跳ねるほど驚いてしまった。「ごめん、集中してるところに急に声かけちゃって」と謝られて、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。集中はしていたのだけど、集中していた部位は手元というより耳の方だった。
「いやいや、全然!もう終わるよ」
「じゃあ、明石さんが終わったらペンキ返してくるね」
ペンキは美術室から使う色だけを借りることになっていた。水色、白、黒、赤を借りていたのでさすがにこれを一人で返すのは大変では?と思う。
「一緒に返しに行くよ!一人じゃ大変じゃん!」
「あ、私一人で行くんじゃなくて……その大垣くんと……」
ははぁん、そういうことか。大垣くんとは現在衣装の方を手伝っている元々デコ係の男の子で、今話している水川さんの彼氏なのだ。
そりゃ彼氏と2人きりになれる機会があるなら絶対ものにしたいだろう。少し離れた美術室まで2人で歩いて行くのなんて、最高のシチュエーションなわけだ。
なるほどー、としたり顔を見せれば水川さんが恥ずかしそうに俯いた。……照れてる女子ってかわいいな。
「じゃあ、お願いしようかな!」
最後の部分を塗り終えたのでそう言えば、「ありがと」と水川さん。ありがとう、はペンキ返却をしてもらう私の台詞なんだけれども。
「ね、ね。そういえば、明石さんって洗井くんと付き合ってるんだよね?」
少し距離を詰めた水川さんが、こそりと耳打ちをしてきた。衣装係の子と話し込んでいる竜生くんの方をちらりと確認した水川さんにつられて、私もそちらに視線を送る。
「うん、付き合ってるよ」
「やっぱり!そうだよね」
「正直、噂になってるでしょ……?」
「んー、噂にもなってるけど、洗井くんのこと見てたらわかるよ」
水川さんは何かを思い出したかのようにくすりと笑った。
「洗井くん、明石さんのことすごい気にしてる。さっきもペンキ塗ってる明石さんのこと、チラチラチラチラ見てたよぉ」
なにそれ。俯いたまま聞き耳を立ててたからわからなかった!
水川さんに指摘された直後、バチンと竜生くんと目が合って、恥ずかしさに溶けてしまいそうだ。顔に熱が集まっていく。
あわあわと焦る私を横目に、水川さんが「洗井くんって優しいんだけど、なんかもっとクールでわかりにくい人なんだと思ってたんだ」とさらに追い詰める。ちょ、ちょっと、ほんと恥ずかしい!
「だけど、明石さんのことが好きーって全身から出てるね」
はい、死亡です。恥ずかしい。恥ずかしいんだけど、嬉しい。側から見ればそんな風に見えているのだと教えてもらって、私はとても嬉しい。
だって、始まりがあれだもの。私ばっかり好きだと今の今まで思っていたのだ。
もちろん竜生くんから直接「好きだ」と言われたことはないので、期待と油断は禁物だ。わかってる。わかってるけれど。
今は素直に喜んでいたい。竜生くん、気づいてる?側から見れば、竜生くんの全身から私への好きが溢れているんだって。
私が大好きなその逆三角形の上半身や骨感を感じるすらりとした長い足から、好きが溢れてるんだって。……これはあまりにも変態っぽいか。反省。
ジーッと見つめている私を不思議に思ったのだろう、竜生くんが、ん?、と言っていそうな表情を私に向けた。
眉が上がり突き出た唇がかわいい。えぇー、このお顔からも私への愛が溢れているんでしょー?
……なんだかどんどん調子に乗ってきてしまうので、この話題はこの辺で終わりにしよう。
でも本当にそうなら嬉しい。本当にそうでありますように、とどうしても願ってしまう。